中国の読み方、アメリカのこれから

対談=橋爪大三郎×渡瀬裕哉

橋爪大三郎著『中国vsアメリカ』(河出書房新社)刊行を機に

 中国とアメリカ、日本にとって最も縁の深い2国である。しかしこの両国のことを日本人は果たして理解できているのだろうか。この両国が理解できなければこれからの世界情勢を読み解くことも困難だろう。主に中国を文明レベルから紐解き、政治、軍事、経済など現在の諸問題を包括的に論じた橋爪大三郎著『中国vsアメリカ』が昨年末発売された。

 米大統領選が終了し、新大統領のもと新しい4年間がはじまろうとしていた2021年初に橋爪氏と国際政治アナリストで早稲田大学招聘研究員の渡瀬裕哉氏に対談いただいた。渡瀬氏は昨年9月に『2020年大統領選挙後の世界と日本』(すばる舎)を刊行し、今回の米大統領選のみならず前後に行われた各議会選挙などの分析においてもきわめて確度の高い情報を発信し続けていた。

 中国(共産党政権)の本質とは、今後のアメリカの行方は。2021年以降の国際情勢を占う重要な対談をぜひお楽しみいただきたい。(編集部)

※本対談は前半部を「読書人WEB」で無料公開し、後半部は有料記事として読書人オンライショップでお買い求めいただけます。


歴代王朝の世界戦略と中国ナショナリズム

 橋爪 私が高校生のころ、中国は文化大革命のまっ最中で、北京放送を聴いて、国際社会とは関係ないあさっての方向に進んでいるなあ、という印象を受けていました。その後、鄧小平が出てきて、中国は大きく舵を切り、国際社会と協調して歩む方向に変わったのです。

 この「改革開放」が、冷戦崩壊より10年ほど前からスタートした点が重要です。アメリカの支援のもと市場経済への移行の道を進んでいたので、冷戦が崩壊して社会主義陣営が総崩れになっても、中国だけは生き残った。その後の国際情勢の変化にも大きな適応力を発揮して、共産党中国が存続して、いまに至っている。

 改革開放を進める中国を、国際社会は当時、どう見ていたか。

 なにせ共産党が資本主義の道を進む、という前例などなかったので、いろんな見方がありました。いっぽうでは、共産党はやがて看板を降ろして消滅し、ただの資本主義市場経済になるだろう、という楽観論があった。もういっぽうでは、市場経済のいいとこ取りをした共産党支配が続き、価値観や行動様式や制度の違いが残って、西側世界とコンフリクトが起こるだろう、という見方もありました。議論は決着をみないまま、まずは経済を発展させ、国を成長させて様子をみよう、になった。

 こういう曖昧な態度のまま時間が流れて行きました。途中、天安門事件が起きました。国際社会は「おや?」と思った。その流れの中で出て来たのが江沢民政権ですね。鄧小平が後継者に指名した。反日強硬派にみえた。その次の胡錦濤政権は比較的穏健にみえたのですが、現在の習近平政権は、これまで以上の強硬派です。どうも話が違ってきた。「衣の下から鎧がのぞく」というか、西側世界の理解できない部分が増えてきた。

 経済力はどうかと言えば、軽く日本を追い越して、そろそろアメリカに並び、いずれ追い越す勢いです。世界一の経済大国にのし上がる日も、現実味を帯びてきました。だからこそいま、中国には誰もが関心を持ち、考えようとしています。でも、どうも考えるための道筋がない。

 中国がそもそもどういう存在かについては、以前からいろいろ考えてはきました。でも、近い将来、大きな対立や事件が起こって、世界史の転換点になるかもしれない。その危険が高まったので、今回急いで『中国vsアメリカ』を書きました。

 この本をひと言でまとめるなら、文明の衝突の本です。文明は、経済・政治・外交・軍事などの個々の領域に表れてくる。文明を理解すれば、現在起きているさまざまな事象を統一的に理解できる、そんな思いで一冊にまとめてみました。

 渡瀬 今回橋爪先生のご著書を拝読させていただき、まさにこれは巨大な文明同士の戦いなんだな、ということをまず思いました。特に先生は本の中で言語を1つのキーとして中国文明を論じられていましたけれども、僕は法律の在り方に着目しました。英米法と大陸法の対比ですが、中国の場合はそもそも法の上に党が存在しているという状態ですので、これまでの世界史の中心だった西欧列強のキリスト教的な世界観とは根本的に違うパラダイムに突入したんだな、ということを読みながら感じた次第です。

 では、今後中国を巡って何が起こってくるのかアメリカ目線で考えてみると、第二次大戦後アメリカが対決してきた国や地域、例えばソビエトは軍事力とイデオロギーで対立し、日本とは貿易摩擦が生じるほどの経済力同士で激突した。その後のイスラム社会とは宗教の違いと人口力の衝突だった、と紐解けます。中国には圧倒的な人口力、そして経済力と軍事力がある。それらの力をもってアメリカと対峙しながら東アジアの覇権と周辺国への冊封体制を固めていこうとしているのでしょうけれども、果たしてアメリカを抑え込んで全世界的な支配を成し遂げられるだけのビジョンがあるのか、そこがよくわからない部分でして。

 橋爪 そもそも中国には、はるか古代王朝の時代から、世界に対するポリシーがありました。自分を中国とか中華とか称するのが、その証拠です。歴代の王朝は、その時代に支配できる世界の果てまでを治めていると考えていた。大陸国家だから、周辺の砂漠地帯や遊牧地帯も視野に入っています。ペルシャやインドなど、ほかの王朝とも交流があった。はるかかなたのローマ帝国の存在だって、ある程度確認はしていた。そういう世界認識を背景にしたうえでの「中国」なのです。

 元の時代はどうか。もともと漢民族ではなくモンゴル民族の王朝ではありましたが、当時知られていた旧大陸の大部分を支配して、世界帝国になりましたよね。そのあとの明の時代には、鄭和が大規模な船団を組み、インドからアフリカ東岸まで遠征している。「鄭和の遠征」ですね。この大船団に比べれば、コロンブスの船団などオモチャみたいなものです。このあと政変があって、記録をまとめるどころではなく、この遠征の目的がよくわからなくなっているんだけれど、いずれにせよこの大事業の規模から考えて、何かしらの世界戦略があったに違いない。

 このように中国は、王朝が変われど、世界に対する意識を常に持っているものなのです。

 渡瀬 なるほど、外に向かおうとするエネルギーはいつの時代にも共通して持っていたわけですか。

 橋爪 世界に向けたポリシーや覇権、それを成しえるプライドと実力ははじめから持っているんだぞ、という気概が根幹にある。だから、清朝からあとの、植民地支配を受けて世界からいじめられた時代や、共産主義になって孤立して歩まねばならなかった直近の時代は、とても不本意な状態だった、と考えているでしょう。同時に、これからは世界の中でふさわしい地位を占めなければならない、とも。これが中国ナショナリズムなのです。

 ただ一般的に、こういった発想はナショナリズムとは呼ばず、帝国主義とか、拡張主義とかと呼ぶ。そこが中国ナショナリズムの厄介な点だと言えます。

 渡瀬 アメリカやソビエトの場合、世界中の人たちを説得するツールとして自由と民主主義、もしくは共産主義革命といった、たとえフィクションだとしても、そういった強力なイデオロギーをもとに世界をまとめようとしましたよね。一方の中国は内発的な支配秩序を全世界に広げたいというナショナリズムの変型がありますけれども、それで異に属する人たちを納得させられるだけのロジックを生み出せるものなのでしょうか。それとも純粋に力で抑え込むのか。

 橋爪 ふつう帝国では、中心になる民族がほかの民族を統治するのには、その理由と、相手が納得できる普遍的な原理とを宣言をする必要がある。それではじめて帝国としての体裁が整うのですが、中国にはそこまでの「普遍的な統治原理」はありません。ただ、中国は優れている、漢民族は優れている、だから支配をするのは当然である。それだけなのですね。

 渡瀬 つまり文明的にも最先端を走っているのだから、周りはそれに従うべきだし、またそれを模倣すべきだ、と。

 橋爪 そうそう。中国的なやり方が最も優れているのだから、みんな中国の真似をするのは当然ではないか、という発想です。

 渡瀬 今のまま中国の経済力や軍事力が強くなっていくと、まずは周辺地域から支配が及ぶようになる。カンボジアなどはすでに取り込まれていますよね。それがアジア圏を中心にじわじわと広がっていって、最終的にアメリカやヨーロッパまでも飲み込むような可能性はあるでしょうか?

 橋爪 さすがにアメリカまで呑み込むことはないだろうけれども、仮にそうなったとして「何かいけないことですか?」。そのくらい、思っているかもしれないな。

 渡瀬 なるほど(笑)。

 橋爪 東南アジア周辺でも勢力を拡大している。ほかにも、スリランカの港を確保したり、アフリカでもあちこちにツバをつけたりしている。入っていけるところだったら、どこにでも入り込んでいる。戦前の日本は「八紘一宇」をスローガンに、東アジアの一帯に「大東亜共栄圏」を築くみたいなことをしたけど、そんなケチなレベルの話ではないな。

 渡瀬 確かに。以前中国の抗日記念館に行ってみたことがあって、共産党バンザイ的な内容で自分たちだけで日本を撥ね退けたという展示だけかと思いきや、意外と最初の方には国民党が戦っていたことを示す展示がありましたし、世界中を巻き込みあらゆる情報を駆使して戦った、という内容だったと記憶していて。だから中国というのは案外世界に目が開かれていて、それをどうやってコントロールするのか、という幅広い視野がこのナショナリズム的な施設でも示されているのだな、ということを思い出しました。

 そう考えると、向こう見ずに中国ナショナリズムで自分たちの優秀さを誇示しているだけかと思えば案外そうでもないのかもしれませんね。そうかと思えば相変わらず周りに向かって「優れた中国に従え」という態度を示し続けているのだから、やっぱり周りが見えていないのかもしれないですけれども(笑)。


しのぎを削る米中

 渡瀬 先生はご著書のなかで「アメリカ自由連合」のアイディアを書かれていますよね。アメリカを中心に日本やヨーロッパなどが緊密に連携をとって、中国に対してデカップリングを行うべきだ、という主旨だったと思いますが、現実的に実現可能だとお考えですか?

 橋爪 アメリカが本気になれば、なんとかなるような気もする。これは要するに、肉を斬るみたいな話ですから、当然血が流れます。でもこちらが、相手の骨に届いていれば我慢のしようもあるわけ。ここで甘い態度に出て、「共存共栄」だとか「経済は別」だとか言いだすと、気がついたときにはもっと不利な条件で中国の言い分を呑まなければならなくなる。

 渡瀬 今のまま進展すると最終的に米中の力関係が逆転するので、条件が不利になるどころか普通に負けてしまいますね。

 橋爪 台湾がまだこちらのコマであるうちに、手を打つべきです。香港もこちらのコマだったのが、気がついたら相手に取られてしまった。将棋でいう、駒損です。そうやって時間が経てば経つほど、どんどん形勢が悪くなっていく。だから早めに手を打つべきなのだけれども、現状、中国に対して効果的な手立てがあまりない。

 渡瀬 対抗措置としてトランプ前大統領が中国企業に対してかなりの経済制裁を行いました。輸出を止めたことによりZTEなど一部の企業には効いたものもあるでしょうし、ファーウェイも一応アメリカから締め出される格好になりましたが、そうはいっても中国経済は好調を保っていますよね。今はどちらかというと国内で新しい産業を立ち上げることに精を出していますので、どこまで効果があったかは疑問です。

 橋爪 中国は農業国だし、自国の領土には地下資源が豊富に埋蔵されていて、石油はそれほどでもなくても、石炭は山のように採掘できるから、エネルギー資源は十分確保できる。だから、地球環境問題さえ気にしなければ、国際社会からデカップリングされてもそこそこ経済を回すことができるのですね。

 その一方、これから世界経済の中で主要なポジションをとるためには、研究開発(R&D)で先端を走り、ハイテク産業を牽引し、常に新しいプロダクツを作り続けられるかどうかがカギになります。今のところアメリカは、先端技術の開発力でもトップなのだけれども、中国も猛烈に追い上げています。

 まだしばらくアメリカが中国に勝てる分野はどこかと言えば、大学です。大学がしっかりしていれば、先端分野で遅れをとることはない。

 渡瀬 確かに世界のトップ頭脳はいまだにアメリカが抱えていますね。

 橋爪 中国国内には14億の人がいますし、「千人計画」で外国からそれなりの人材を引っ張ってきてもいる。とは言え、この差はまだ大きいのです。ただこの分野にも、アメリカ並みの資金を投入している。学術研究の分野の育成に全力を注ごうとしているのは明白です。

 たとえば、研究開発の面で、米中がしのぎを削っているのは、量子コンピュータの分野です。量子コンピュータは、在来のスパコンよりも桁違いに計算スピードが早い。すると、非量子コンピュータの暗号を解読し、相手国のシステムを突破することができるようになる。しばらく前なら、先端技術で、米中がトップ争いをするなんて、考えられなかったでしょう。でもいまは、もうそういう時代なのです。

 量子コンピュータが実用化すれば、軍事技術の核心になるでしょう。相手国の軍事通信システムを無力化できる。だから、両国は負けられないと必死で研究しています。

 渡瀬 そこまでいけばもはや武力同士の戦争、という話にもならないですね。

 橋爪 中国はすでに量子コンピュータの初期実験に成功した、と発表しています。このように必要な研究開発に中国共産党が主導して集中的に投資するシステムが確立しているんですね。そこが民間レベルで研究を行なうアメリカと違う点で、ある意味非常に効率的です。これは相当手強い相手ですよ。<つづく>



★はしづめ・だいさぶろう=社会学者。大学院大学至善館教授、東京工業大学名誉教授。『はじめての構造主義』、『世界がわかる宗教社会学入門』、『ふしぎなキリスト教』(共著)、『戦争の社会学』、『死の講義』、『はじめての聖書』、『性愛論』、『アメリカ』(共著)など著書多数。1948年生まれ。

★わたせ・ゆうや=国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。創業メンバーとして立ち上げたIT 企業が一部上場企業にM&Aされてグループ会社取締役として従事。著書に『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』、『税金下げろ、規制をなくせ』など。1981年生まれ。