魔女を追い、ドイツを旅する
歴史と正体を探る一冊

インタビュー=西村佑子

 魔女の足跡をたどり、ドイツ各地を歩いてきた西村佑子さんが『魔女街道の旅』(山と溪谷社)を上梓した。

「私は学者でも研究者でもありません。言うなれば、ドイツの魔女を追う旅人です」。

 そう語る西村さんがドイツを初めて訪れたのは、一九七〇年代後半。二歳前の子どもを背負いながら、東西統一前のドイツを一ヵ月ほどかけてめぐったという。「東ドイツにも子どもを連れて入りましたが、今思えば相当に無茶なことをしていますね(笑)」と、最初の旅を振り返りつつ、現在の想いを述べた。

「この本を刊行することは、私の本望でした。今から二〇年ほど前に、『ドイツ魔女街道を旅してみませんか?』を出版しました。ですが、当時は今ほど通信機器も発達しておらず、なかなか情報を仕入れることができなかった。何より、現在と比べるとドイツをしっかり歩けていなかったんです。これは私のこだわりですが、同じ場所には三度足を運びたいと基本的には考えています。三度行けば、比較ができるし違いも分かるようになりますからね。

 そんな事情もあって、二〇年前の拙さを修正したい、新たな情報を加筆したいとずっと考えていました。なかなか時間が取れなかったのですが、昨年、コロナウイルスの発生によって思いがけず家にいる時間ができました。ドイツに行けなくなったのは大きな痛手でしたが、これを活用しない手はないと、ひたすら原稿を執筆していました。今まで追ってきた魔女に関する知識を、ようやく一冊にまとめることができたので、とても嬉しく思っています」。

 メルヘン街道やロマンティック街道など、ドイツにはいくつもの街道が存在する。タイトルにある「魔女街道」は、実在しない街道だが、西村さんの「核心」をあらわす言葉だそうだ。

「大学の非常勤講師として働いていたとき、ドイツ人の先生と何冊か教科書を作ったことがありました。その際、私は「自分が追ってきたドイツの魔女について、いつかまとめたい」という話をしたんです。すると、彼は「つまり、ヘクセンシュトラーセ(魔女街道)ですね」と言ったのです。その言葉を、私はとても気にいりました。これが「魔女街道」命名の由来です。それで、担当編集者さんに無理を言って、今回の本のタイトルにしてもらったのです」。

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 第一章「迫害された魔女たちの歴史をたどる」、第二章「魔女への慰霊の旅」では、魔女にまつわる暗い歴史を紹介している。「過去に何があったか、魔女の歴史的事実を最初におさえておくことは、絶対に譲れませんでした」と述べた西村さんは、次のようにつづける。

「正直に言うと、魔女は可愛い、素敵という一般的なイメージに私は抵抗があります。小説や映画などの影響もあるので、そういうイメージを抱いてしまうのは仕方がないですが、魔女にも歴史があったということを知ってほしいのです。魔女というのは、時の権力によって作られたスケープゴートでした。度重なる戦争、疫病の流行、飢饉という悲惨な社会状況をもたらしたのは、悪魔と結託した魔女のせいであると、教会も為政者もそう言いたてたのです。ドイツでは一六世紀から一七世紀にかけて、性別、年齢を問わず、多くの人が「魔女」として法の下に裁かれ、処刑されています。自白を強要するために使った拷問道具や、当時の裁判記録、魔女の嫌疑がかけられた人を収容していた「魔女の塔」を、本の中で紹介しました。暗くて残酷な話ですが、背景をまったく知らずに「魔女が好き!」なんて言われると、どこか違和感を覚えてしまいます。

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 ドイツは自国が犯した過ちに対し、謝罪して終わりにはしない国です。たとえばナチスによるユダヤ人迫害の歴史であれば、徹底的な資料館をいくつも作り、その記憶を風化させないようにしています。第一章、第二章を読んでもらうと気付くかもしれませんが、魔女に対しても、同じような対応をしているんですね。本書でも巡っていますが、魔女の塔の跡地に慰霊塔や噴水を造り、過去と真摯に向き合っています。とはいえ、自分たちの過去をどう扱えばよいのか、教会内部にはしこりが残っていることも事実です。ある牧師さんからは、「あなたは魔女の研究をしていたんですね」と言われ、絶交された経験があります。彼にとって、魔女の存在はタブーだったのでしょう。複雑な問題をはらんだこの種の宗教観は、日本人である私たちには、今ひとつ理解しにくいものです。暗い話はしない方がいいかもしれないと考えるときもあるけれど、日本人がイメージする魔女とドイツの魔女はやっぱり違う。それに気づくためには、過去を知る必要があります」。

 最後に本書の読みどころについて、西村さんは次のように語り、話を締めくくった。

「魔女を追う本筋は、もちろん読んでもらいたい。それはさておき、私のおすすめは「ちょっと寄り道」と題して収録したコラムですね。初稿では、いろんな要素やテーマを詰め込んでいたのですが、「魔女を追う本編、それ以外の部分を寄り道と分けた方が面白い」と担当編集さんが提案してくれました。そこで、「ルターと悪魔」や「千年のバラ」、「死の舞踏」にまつわる話などは、寄り道として紹介することにしました。寄り道も旅の立派な醍醐味なので、楽しんでいただけると幸いです。

 一番うれしいのは、この本を読んだ読者が、ドイツに行きたいと思ってくれることです。『魔女街道の旅』を通して、ドイツにはこんな場所や文化があるのだと知ってもらいたい。もしも今後、ドイツに行く機会があったときに立ち寄ってみたい場所を、本道、寄り道問わず、この本の中から一つでも選んでもらえるといいなぁと思っています」。
(おわり)

★にしむら・ゆうこ
=現在NHK文化センター柏・千葉教室講師。「魔女の秘密展」監修。著書に『魔女の薬草箱』『不思議な薬草箱』など。
≪週刊読書人2021年4月23日号掲載≫