成長しない日本の労働問題

対談=安田峰俊×澤田晃宏

『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』『ルポ 技能実習生』をめぐって

 ルポライターの安田峰俊氏が『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』(KADOKAWA)を上梓した。紋切り型の報道で伝えられる、日本に暮らす外国人労働者の姿は、果たして事実を写したものなのか。様々な手立てを用いて、日本在住のイスラム、ベトナム、中国の人々、かつて技能実習生として暮らしていた人々を取材する。ジャーナリストの澤田晃宏氏は『ルポ 技能実習生』(ちくま新書)で主に、現在技能実習生の中心となるベトナム人について取材し、その制度と実際の構造を、網の目を掬うように明らかにしている。日本の移民問題、技能実習制度を取材したお二人に対談をお願いした。(編集部)
≪週刊読書人2021年4月23日号掲載≫


紋切り型・レッテル貼りではない在日外国人の話

 澤田 僕は十七歳から記者をしています。学歴がないので、最初は男性向けアダルト誌しか書いていませんでしたが、それでも昔は、僕みたいに高校を出ていない人間でも、食っていく道があったんです。いまは若いライターが育つ環境がないのがかわいそうですね。ネット媒体だけでは、取材などのスキルもつかないし、原稿料も安く、生活していくことが難しい。僕や安田さんの世代が最後の、フリーの物書きという絶滅危惧種なのではないか。だからこそ書き続けていかなければと思います。

 安田さんも初めからフリーですか?

 安田 そうです。昔は怪しい情報商材の一文字一円の原稿や、「萌えあがる暮春若妻」のレビュー二〇本を書いていました(笑)。さいわい、現在は文筆業のみで食べられているので、実力があれば評価されるこの業界をありがたく思っています。

 澤田 書き屋の仕事は大変ですよね。その上、取材費がかかるし、儲からない。技能実習生の取材も、日本では最低賃金でも、母国に大金を持って帰ることができる彼らへの嫉妬が発端だったりするんですよね。

 この本を書くことで、技能実習生について、何かを世に訴えたいとか、そういう気持ちはありませんでした。ただ五〇~六〇年後に、なんでこの時代にベトナム人が日本にたくさん入ってきたのか、後の世代の書き屋が調べたときに、出てくるのが技能実習生の惨事ばかりだとしたら、それは違うだろうと。「外国人技能実習制度は現代の徴用工」みたいなレッテル貼りになりかねないので、記者の責務として、事実を淡々と書こうと思いました。

 安田 本の最初に書きましたが、在日外国人関連の情報は紋切り型で、外国人労働者のかわいそうな事例を集めるもの、情報をレポート的に集積するもの、外国人の増加に対する排外主義感情を刺激しようとするもの、この三つのかたちに切り取るものが多い。私も、そうではない本を書きたいと思ったんです。

 澤田 NHKとか大手新聞の記者は、生活のために肉体労働をしながら取材する、という必要がないわけでしょう。食っていくことに時間を削られないのなら、もっと腰据えて物事を報じてほしいですけどね。ただテレビ屋は一人で全てを完結できないし、技能実習制度を説明していたら番組が終わってしまうので、分かりやすい悲惨な技能実習生、という話になりがちです。

 安田 国内取材では、企業記者が気の毒に思えることもありますけどね。本の中で、家畜窃盗団の主犯格とみなされていた〝群馬の兄貴〟について取材していますが、彼らのアジト(通称〝兄貴ハウス〟)を訪ねたら、地方紙の新人記者の名刺が落ちていたんです。彼女に電話をしてみたら「相手にされなかった」と。私の方は、兄貴ハウスに入れてもらえるようになったので、一緒に来るかと誘ったのですが、コロナ禍に外国人コミュニティの中で、相手に酒を飲ませて話を聞くみたいなことはコンプライアンス的にできないと。

 ちなみにその取材で、〝群馬の兄貴〟は濡れ衣で逮捕されたのでは、ということが分かってきました。

 ところで澤田さんは、今回なぜベトナムをメインに、あそこまで緻密に技能実習生について書くことになったのですか。

 澤田 もともと高校生の就職を専門に取材をしているのですが、高校生の就職先が技能実習生とほとんど一緒なんです。業界も就く仕事も。四~五年ぐらい前から、高校生の就職先がどんどん技能実習生に切り替わっていって、しかも入ってくるのがほとんどベトナム人で、これはどういうことだろうと。

 千葉の某レストランでは、毎年高校生を十人採用していたのを止めて、技能実習生の募集に切り替えました。高校生は最低賃金なので、あれこそ一番かわいそうな労働者だと思うのですが、雇用者側からすると技能実習生より安くつきます。技能実習制度には、海外の送り出し機関、日本の監理団体、受け入れ企業が関わっていて、企業は監理団体に対して監理費を払う必要があります。そのレストランは、技能実習生一人につき監理費を四万五千円払っていると言っていました。これは高い方ですが、それだけ払っても、三年から五年辞めずに勤める実習生の方が、高校生よりいいという判断ですよね。七五三現象と言いますが、日本人の大卒者が三年以内に辞める率が三割、高卒生は五割です。技能実習生は基本的に、実習先を変更することができない仕組みになっていますので。

 そういう流れからですね、ベトナムとの関わりは。ベトナムに行くことがあるなんて思ってもいなかった(笑)。<つづく>

本編のつづきは以下で読めます


★やすだ・みねとし=ルポライター・立命館大学人文科学研究所客員協力研究員。著書『八九六四「天安門事件」は再び起きるか』で城山三郎賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。一九八二年生。
★さわだ・あきひろ=ジャーナリスト・NPO法人日比交流支援機構理事。「週刊SPA!」編集者、「AERA」記者などを経てフリー。「月刊高校教育」で「ルポ外国につながる子どもたち」連載中。一九八一年生。