保守もリベラルもQアノンも

対談=内藤陽介×掛谷英紀

『誰もが知りたいQアノンの正体』(ビジネス社)刊行を機に

読書人WEB限定公開 保守もリベラルもQアノンも 『誰もが知りたいQアノンの正体』(ビジネス社)刊行を機に

対談=内藤陽介×掛谷英紀  昨年11月、世界が注目する米大統領選の大勢が決した。ドナルド・トランプからジョー・バイデンへ、共和党から民主党へ、政権交代が行われ、世界は新しいリーダーを迎えることになる……。しかし話はそれだけでは終わらなかった。不正選挙をめぐる数々の真偽不明の情報が飛び交い、トランプの勝利を疑わない人たちがその情報をネットに拡散し、日本のトランプ支持者たちまでも焚きつけることになった。その根も葉もない情報の発信源としてQアノンという存在が広く知られるようになった。

 Qアノンとは何なのか? 昨年の大統領選をめぐる一連の騒動はなぜ起きたのか。それらを整理し1冊にまとめた内藤陽介著『誰もが知りたいQアノンの正体 みんな大好き陰謀論Ⅱ』(ビジネス社)刊行を機に、著者で郵便学者の内藤陽介氏と筑波大学准教授の掛谷英紀氏に対談をしてもらった。

 なぜ人びとはQアノンにのめり込んでいったのか、陰謀論にハマりやすい人の特徴とは。昨年の大統領選以降、様々な情報がSNSやYouTubeなどの新しいメディアを中心に発信されていくなか、冷静な分析を自身のTwitterなどで発信してきた両氏に、Qアノンに端を発する問題について大いに議論してもらった。(編集部)


【Qアノンとは?】
ネット上でトランプが悪の組織ディープ・ステイト(闇の政府)と戦っていると情報を流している大本。
そもそも日本の2チャンネルの影響を受けて米国でスタートした4チャンネルから分かれた8チャンネルで登場したのがQであった。
ハンドルネームQの投稿が拡散されて大きなQアノン現象を生み出したのだ。
Qアノンの主張によると、この世界は悪魔崇拝者による国際的な秘密結社によって支配されている。
国際的な秘密結社はディープ・ステイトやカバール(陰謀団)の強い影響下にある。
彼らは合衆国政府を含め、基本的にすべての有力政治家、メディア、ハリウッドをコントロールしているが、その存在は隠蔽されている。
ディープ・ステイトについて従来は多くのことが秘匿されていたのだが、トランプが2016年の大統領選挙で勝利したことで、
闇の組織ディープ・ステイトの存在が広く世間に知られるようになった。
トランプは、まさしくディープ・ステイトと戦うために大統領になったのだ、という。(出版社HPより)


陰謀論にハマる人、ハマらない人


 掛谷 刊行が楽しみだった内藤先生の『誰もが知りたいQアノンの正体』ですが、本書で書かれている7割ぐらいの情報が私にとって新しい知見でした。そして内藤先生は相変わらずなんでもご存知だな、と(笑)。今回のQアノン現象を理解するうえでの背景も丁寧にお書きになられていてですね。

 内藤 これは往々にして言われることですが、事実として正しいか正しくないかを切り分けること、それ自体は当然大事なことなのですが、一方で今回のQアノンのように明らかに事実と異なるものを何故人びと、特に保守系の人たちが受け入れたのか。出所不明の偽情報であることはきちんと踏まえつつ、その前提となった背景は追うべきだろうと思っていたんですよ。

 これはもともと僕の出身であるイスラム学科というのは大学の制度的には宗教学の分家で、そこで学んでいたことに起因する発想といいますか、特定の宗教を論じる上でも語り継がれていることがすべて歴史的事実かというと、誇張された部分は当然あるわけで。一方でその誇張を含めて人びとが信じてきた歴史はたしかに存在していますし、そういった思考回路で信徒の人たちが世の中をどう見ているのか、ということにも関心を持ちたいわけです。そのような文脈で、ではなぜQアノンが生まれたのか、それを信じている人びとの目に今のアメリカ社会がどう映っているのか、このことをある程度おさらいしておきましょう、というのが本書の主旨なんですよ。このテーマに沿って1冊にまとめてみた結果、Qアノン誕生前史となる90年代のクリントン政権以降に勃興したアメリカのネットメディア、特に保守系を中心としたネットメディア史を紐解くことにも繋がりました。

 実は本書の前に刊行した『世界はいつでも不安定』(ワニブックス)の第一章で伝統的なアメリカの保守層の人たち、ようはアメリカ南部で普通に暮らしているおじさんたちのことですが、彼らが自国をどう見ているのか、ということを書きました。ですので、Qアノンにのめり込んだ人たちに特化して書いた本書とセットのような体裁になっていますので、現在のアメリカ社会を読み解く上でも参考になる部分はあるのではないかなと思っています。

 掛谷 90年代に勃興してきたネットメディアの歴史は知らないことばかりでしたね。ちなみに本書では触れられていないのですが、90年代のアメリカ保守系メディアといったときにパッと連想するのが最近亡くなったラッシュ・リンボーなんですよ。私なんかは彼のラジオトークショーを聞いて英語を勉強したくらいですから(笑)。

 なぜ彼の名前を挙げたかと言いますと、Qアノンにハマったのが基本的にアメリカの保守系全般だと言われがちなんですが、保守のなかにもQアノンの影響を受けていない人たちがいます。それがラッシュ・リンボー本人や彼に影響を受けた政治評論家のベン・シャピーロをはじめ、今人気の保守系政治YouTuberたちなんですよね。

 内藤 Qアノンにハマらなかった人たちが本来の意味での保守だと言えるでしょう。彼らのような真の保守は自国の伝統的な土着部分にしっかり根をおろしている強みがあるから、陰謀論のようなものには簡単に引っかからない。

 掛谷 逆にQアノンにハマった人たちは物事を極端に単純化してでしか見れないじゃないですか。彼らは「ディープ・ステイト(闇の組織)」なる存在が世界を裏から支配していると信じきっていて、「ディープ・ステイト」に関係する著名人や企業が利権を貪っているように思いこんでいます。でも普通に考えればひとつの組織が世界を操れるほど世の中は簡単な構図では出来ていませんよね。そもそも社会は多数の利権が複雑にからみ合っていて、それこそ既得権者同士の対立なんてしょっちゅうあるわけで。それを単純化した0・1の図式でしか見られないということは、パソコンに内蔵されているメインメモリが1ビットしかないようなもので、作業記憶の領域が極端に小さい。そんな人が陰謀論にハマりやすいんだろうなと思っています。

 内藤 あとは今、中間層が没落して下層に落ちていくのが顕著ですので、そこで生じるルサンチマンも作用しているでしょう。それは日本にも同じことが言えて。

 掛谷 私がよく視聴している「Blue Collar Logic」という政治系YouTube番組があるんですけれども、番組パーソナリティのデイブ・モリソンは普段トレーラーハウスで生活しているような人物ですので、経済的に成功していない保守の典型のような人で。しかしデイブ・モリソンはQアノンブームの最中も陰謀論にハマらずに、いつも伝統的宗教観に根ざした深い思索をもって情報を発信していました。困窮した生活を送りながらも決してブレない人もアメリカには少なからずいるんですね。内藤先生がおっしゃるように自身の境遇に対して常にルサンチマンを抱いて陰謀論にのめり込む人は、やはり物事を考える力が著しく欠落しているのだと思います。

 内藤 自国の文化に根ざした伝統的なバックグラウンドをどれだけ体得しているかは大事ですよね。その伝統的価値観を否定し続けているのがリベラルなわけで。ちゃんとした大人に囲まれてきちんとした教育を受けて育ってきた人たちというのは、金銭的な環境に関わらず地に足をつけた考え方ができるようになるんですよ。

 掛谷 デイブ・モリソンも、親が毎週教会に通っていたそうですよ。彼の思索の背景を知る上でうってつけの回があって、なぜタトゥーを入れないほうがいいか、ということを語っている人気動画があります。彼の説を簡単に紹介すると、人は常に考えを変えながら成長していく生き物ですが、すぐに消したり修正できる経験だったらバカなことをしたと反省して自身の成長に繋げられるけれど、それが消せない経験の場合考えを変えずにバカなことをした過去の自分の行為を正当化してしまう。つまり自身の成長を阻害する原因になるから、タトゥーのように消せないものはやらないほうがいい、と。この話にいたく感銘を受けました。アメリカの宗教を基盤とする伝統的価値観に裏付けられた人というのはこういう思慮に富んだ解説が出来るんだ、って。

 内藤 結局はそういうことなんですよね。


2020年米大統領選総括


 掛谷 Qアノンの問題を語る上でポイントになるのが昨年のアメリカ大統領選で、本書の第一章でも一連の流れを論じられていますが、私が見た大統領選の印象も少しお話しようと思います。私は主にアメリカの保守系政治YouTube番組を中心にオピニオン情報を収集していました。先ほど名前を挙げたベン・シャピーロやデイブ・モリソン、あるいは黒人のアンソニー・ブライアン・ローガンのチャンネルが有名どころですね。

 彼らは基本的にトランプ支持の論調でしたが大統領選後の不正選挙を巡る情報が錯綜していたとき、たとえばアンソニー・ブライアン・ローガンなんかは大統領選中に何かしら不正はあっただろうが証拠はないからとりあえず保留する、という見解でした。唯一、不正の証拠が判明したフルトン・カウンティの件だけは言及して、それ以外のものは基本的に無視という具合に。陰謀論にハマらなかった保守系の人たちは基本的にこのようなスタンスでした。逆にQアノンにハマったトランプ支持者は、一次情報をきちんと確認しないまま真偽不明の情報をどんどん流して盛り上がっていましたよね。

 内藤 Qアノンにハマるような保守の人やトランプ支持者というのは長い間リベラルからいじめられてきた経験があって、怨念の発露という意味でも今回の大統領選はお祭りだったんですよ(笑)。

 掛谷 私の場合、トランプ政権の大統領補佐官だったピーター・ナヴァロが発表した「ナヴァロ・レポート」も読みましたし、トランプの顧問弁護士のルドルフ・ジュリアーニの動画チャンネルやいくつかの州での公聴会も聞いた上で、これだけでは不正選挙の証明はできないなと思いましたから。やはり一次情報をもとに検証するのが基本です。

 ところが日本で陰謀論にハマった一部の保守やトランプ支持者たちも多分に一次情報の確認を怠っていましたし、基本的な英語の読解力がないにも関わらず現地の未確認情報を引っ張ってわかった気になっていましたよね。彼らは何をもって情報を選別していたのだろうか。

 内藤 アメリカのお祭り騒ぎに触発されて自分たちが盛り上がれる話題に乗っかった、というところでしょう。それに0・1思考の人たちは基本的に贔屓の引き倒しで日米ともにトランプに肩入れしすぎていたから、日本ではいわゆる安倍信者と言われている人たちに今回の騒動が当てはまった。安倍さんが昨年夏に総理の座を退いて傷心しているところに、盟友トランプもいなくなるとなったら。そういう悲壮感が増していく反面、YouTubeやツイッターで危機を煽ったら思いのほか再生回数やリツイートが加速した。今までさんざん虐げられてきた人たちだから、大統領選をきっかけに世間の注目を一気に集めたことが快感になっていった、という現象だったんじゃないでしょうかね。

 僕はYouTubeチャンネルの「チャンネルくらら」で早稲田大学招聘研究員の渡瀬裕哉さんと一緒に今回の米大統領選を長期間にわたって観察してきたのですが、アメリカ政治に詳しい渡瀬さんは割と早い段階からトランプ敗北と分析していましたね。ふたりともトランプ政権をかなりポジティブに評価していたので、なんとか巻き返して欲しい気持ちで選挙戦を追っていましたけれども。ただ、昨年8月のUAEとイスラエルの国交正常化を見て僕もトランプの負けを確信しました。少なくともその時点で世界は政権移行を前提に動いているな、と。そうであっても開票ギリギリまで勝ってほしいよね、という論調で発言してきましたが。

 掛谷 内藤先生には開票前に一度お会いしましたが、そのときに「トランプは負けそうだ」って話をしましたよね。

 内藤 2回目のテレビ討論会ではだいぶ巻き返しを図れたのに、なんでこれを最初からやらなかったんだ、みたいな。

 掛谷 1回目のテレビ討論会をどう評価するかで情勢を客観的に認識できているかどうかの線引ができた部分がありますよね。1回目は誰がどう見てもトランプの負けでしたので、2回目のテレビ討論会を見る前に郵便投票を済ませた人は間違いなくバイデンに入れたでしょうから。

 内藤 選挙の争点にアイデンティティ・ポリティクスが入ってきたことも従来の選挙戦から様相を変えましたね。コロナ前まで経済は確かに好調だったのですが、大統領選前に行われたいくつかの州知事選挙で共和党が負けていた点を鑑みても、それまでの常識は通じなくなっていました。

 掛谷 私も4年間のトランプ時代の政策は評価しているのですが、あの大統領からああいう優れた政策が出てきたということはスタッフが優秀だったと見て大丈夫ですか?

 内藤 ひとつには副大統領のマイク・ペンスが偉かった、と。実質ペンスが大統領だった面があるくらいです。しかし、もし2016年の大統領選で共和党の大統領候補ペンスだったらヒラリー・クリントンに勝てたかどうか。もうひとつはトランプ自身がワシントン政治のアウトサイダーだったので、過去のしがらみとは無関係に損得勘定で動けた部分も大きいです。たとえばイスラエルとアラブ諸国の仲介にしても、今まではうやむやな形の政治決着をしてきましたが、トランプは実利を優先してサインしましたので。このあたりも政治的素人ゆえの決断力です。あとは大統領に勝手に喋らせて、優秀な裏方が的確に動いていたという面も多分にあったでしょうね。その結果、現在のバイデン政権は発足前にいろいろ言われましたがトランプ政権の政策を継承せざるをえなくなっている状態です。

 掛谷 私はバイデン政権になったら、あまりにひどかったオバマ政権外交の二の舞になると危惧していたので、この部分は認識が足りなかったなと反省しています。内藤先生は今の流れが今後も継続されていくとお考えですか?

 内藤 これはネットで拾った情報の受け売りなのですが、トランプ政権以前の外交は安全保障と経済を切り離して別々に動いていたけれども、トランプはそれを一体化させた。だからこれを元に戻すことはできないだろう、と。その意味で言えば、このままの方向で進むと思います。一方でトランプは中国を、バイデンはロシアをそれぞれ敵認定している違いもあります。基本的にバイデンは大西洋を中心に世界政策を考える人ですから、ゆくゆくは東アジア戦略を全般的に日本に委ねてくるかもしれません。あと今は人権問題で中国を締め上げていますが、そのうち中国以外の人権問題にも口を出してくる可能性がありますので日本にとばっちりがくるかもしれません。そのときに頭に血がのぼった保守系の人たちが、バイデンはけしからん、みたいなことを言いだすと話はまたややこしくなるな、と(笑)。


アメリカのポリティカル・コレクトネス


 掛谷 アイデンティティ・ポリティクスの話が出ましたが、近年のアメリカは二大政党制のひずみからか、特に民主党側のアイデンティティ・ポリティクスのひどさが際立って、建国の理念すら認めない方向に向かっているように思います。

 最近アメリカからきた留学生やALT(Assistant Language Teacher)の若い人と話をしたのですが、来日の理由にポリティカル・コレクトネス(以下ポリコレ)が嫌だという、いわゆるポリコレ疲れがあるみたいです。よく日本は同調圧力で選択肢を狭めていると言われますが、今の欧米のポリコレに比べればまだましと思っている人たちがいる、ということですね。

 内藤 ポリコレを主張する人たちは選択肢自体を否定してきますよね。そもそもポリコレの歴史的背景はヨーロッパが近代化、文明化を進める上で、他の地域の異分子を徹底的に差別、排除して純化していったことに対する反省から出てきた反差別が由来です。そしてあまりにもポリコレの勢いが激しくなった結果の反動として出てきたのがQアノン、という文脈ですね。

 これは本書でも触れましたが、アメリカでポリコレに類するものが出てきたのは90年代初頭で、クラレンス・トーマスという保守派の判事を最高裁に任命するときの公聴会においてリベラルがセクハラ疑惑で彼を糾弾しました。その翌年にビル・クリントンが民主党の大統領候補として選挙戦に臨むにあたり女性スキャンダルが浮上しましたが、リベラルはこれに対してだんまりを決め込んだ。この掌返しにリベラル以外の人たちはうんざりした、ということがありまして。ちなみに今の日本でもリベラルのあまりにも露骨なご都合主義にみんなうんざりしてきていますよね。

 掛谷 リベラルのダブルスタンダード的な態度は過去の大統領選にも表れていますね。これはベン・シャピーロの分析の引用ですが、バラク・オバマが大統領選を戦った2008年と2012年の共和党の候補はジョン・マケインとミット・ロムニーでした。このふたりは共和党支持層からみても非常にいい候補者で、人格的にもトランプとは正反対です。この両名は選挙戦で正々堂々とオバマの政策批判をして戦ったのですが、対するオバマは徹底的に対立候補の人格攻撃を仕掛けた。その結果人格攻撃の方が勝った、と。だから共和党は2連敗した反省からトランプを候補として擁立し、民主党の十八番である人格攻撃で対抗して勝つことができた。その戦法に出たからトランプは余計リベラルに嫌われているんじゃないか、とも私は見ています。

 内藤 ようするに今までリベラルはやりたい放題だったんですよ。なぜ共和党がオバマに対して人格攻撃出来なかったというと、彼がアフリカ系でオバマ個人に対する攻撃をあたかも人種差別だと読み替えて逆発信されてしまうリスクがあったからです。トランプの場合そのへんの制約を取り払って戦えた、という面はありますね。

 トランプに関して付け加えてお話すると、これも本書に書きましたがアメリカはお国柄、自己啓発の精神が非常に強くてですね。そのメンタリティに基づいて努力をすれば必ず成功出来る、という信念を徹底できる人間でないとアメリカではリーダー、ひいては大統領候補にすらなれないわけです。トランプはそのモデルを突き詰めて強烈にしたキャラクターだといえます。

 掛谷 自己啓発の精神性というのはキリスト教の預定説にも深く関わっていますね。

 内藤 あとは彼の風貌ですよね。金髪白人男性で割とマッチョ、このイメージは失われつつある伝統的アメリカ人像とマッチしていて、ある種の郷愁をそそるわけです。マチズモ自体、今はネガティブに言われることが多いのですが、かといってそのイメージに紐付いた伝統的価値観を一気に払拭できるかといえば無理なんですよ。それはあくまでアメリカ北部のいわゆるエスタブリッシュメント側の人たちが否定しているだけで、南部で暮らす普通の人たちからすれば到底受け入れられない。この構図を指してアメリカの分断だとリベラルは主張しますが、元々違うものを無理やりくっつけたことによる軋轢の面の方が強いです。民主党やリベラルの人たちは分断の解消を声高に唱えますが、内実は分断の解消ではなく自分の気に入らない言論を差別だなんだとレッテル貼りして反対意見を圧殺して分断をなかったことにしようとしているだけです。こういったリベラルに圧殺された側の意見や背景というものを丁寧に見ていかないと、社会の本質は見えないですよね。

 掛谷 日本人が見るアメリカは北部中心というか、エスタブリッシュメントなバイアスのかかった情報が大半です。私がアメリカにホームステイしたときはバリバリのクリスチャンのお宅にお世話になりましたが、食前に家族揃ってお祈りするのが日常という家庭でしたね。このようなキリスト教に根ざした伝統的なアメリカ像はなかなか伝わってきにくいのが実情で。そこを見落とすからリベラルやポリコレが嫌いの人たちの言い分がわからないし、それが極端化したQアノンという特殊な現象も見えてきにくいわけで。

 内藤 逆に言えば非常に尖っているQアノンからアメリカ社会の別の一面が見えてくるともいえますね。

 ちなみにこれは日銀審議委員の安達誠司先生の発言ですが、トランプという人はアホを最大限に利用して大統領に当選したのだけれども、アホを切り損なって自滅した、と(笑)。身も蓋もない表現ですが、今回の事象をよく表しています。アホというのはQアノンに流されたトランプ支持者のことですが、もしトランプがプロの政治家として8年間大統領職を全うするのであれば、いつかはそういう支持者たちを切る決断が必要だった。それが出来なかったのも彼の政治的素人たる所以といえるかもしれません。

 掛谷 去年のBLM騒動のときにトランプは「Law and Order」と連呼していましたが、1月6日の一部過激なトランプ支持者による議事堂襲撃が起きたことによって自分で破ってしまった。これはさすがにまずかったですね。

 内藤 リチャード・ニクソンが使ったフレーズをトランプも使ったわけですが、双方晩節を汚したという点でも同じなのは皮肉ですね。それゆえ彼の実績が冷静に評価されるようになるためにはもう数十年待たなければならなくなりました。ただ我々のように是々非々でトランプを評価する人間がいる反面、リベラルなんかは価値観が相容れないという理由で徹底的に彼の業績を認めようとはしないでしょうが。とはいえ客観的に見て認めるべきところは認めないと、という穏健な物言いにしかならないから、刺激不足で結局リベラル側に力負けしちゃうんですけどね(笑)。<つづく>

本編のつづきは以下で読めます

★ないとう・ようすけ=郵便学者。日本文芸家協会会員。切手等の郵便資料から国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し、研究・著作活動を続けている。主な著書に『事情のある国の切手ほど面白い』、『マリ近現代史』、『朝鮮戦争』、『パレスチナ現代史』、『チェ・ゲバラとキューバ革命』、『改訂増補版 アウシュヴィッツの手紙』など。1967年生。

★かけや・ひでき=筑波大学システム情報系准教授。東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了。通信総合研究所(現情報通信研究機構)研究員を経て現職。専門はメディア工学。 著書に『学問とは何か』、『学者のウソ』、『「先見力」の授業』、『人類の敵』がある。1970年生。