ハイデガー哲学の多面性を知る

鼎談=高田珠樹・秋富克哉・古荘真敬

ハイデガー・フォーラム編『ハイデガー事典』(昭和堂)刊行を機に

 昭和堂より、ハイデガー・フォーラム編『ハイデガー事典』が刊行された。充実したテーマ編、詳細な用語編、人名編、資料編の四編から成り、日本のハイデガー研究の総力が結集されている。刊行を機に、編集委員を務める秋富克哉氏(京都工芸繊維大学教授)、古荘真敬氏(東京大学教授)、ハイデガーの訳書を多く手がける高田珠樹氏(大阪大学名誉教授)に鼎談していただいた。(編集部)
≪週刊読書人2021年7月9日号掲載≫



刊行の経緯と事典の特徴/全体調整作業の苦労


 秋富 二〇〇六年にハイデガー・フォーラムが創設されて以来、年次大会を積み重ね、その間、『ハイデガー読本』(法政大学出版局)の正・続編も刊行しました。ちょうど続編の出た後、二〇一六年の夏頃ですが、昭和堂の編集者の鈴木(了市)さんから「ハイデガー事典」のご提案をいただきました。それで、秋の名古屋大学でのフォーラムの大会で報告し、終了後に編集委員会を結成しました。それがすべての始まりです。

 弘文堂さんから出ている哲学者の事典に見習いながらも、せっかくなら独自な観点を入れられないかと、編集委員のメンバーでいろいろと意見交換をしました。その結果、読み物の「テーマ編」、従来の事典が備えているような「用語編」と「人名編」、プラスアルファの「資料編」という形になったわけです。資料編にどのようなものを入れれば魅力的で目新しいものになるか、いろいろと相談しましたね。

 一番知恵を出し合ったのが、「テーマ編」にどんな内容を入れるかについてです。第一編の「テーマ編」は四部構成になっています。ハイデガーの思想形成、その哲学の根本事象、古代から現代までの哲学史との関係、さらに現代的な問題も盛り込みました。テーマを挙げるときに、このテーマならこの研究者に書いてもらったらいいのではないかということも併せて議論しながら、項目を決めていきました。

 古荘 そうですね。ハイデガー・フォーラムの名古屋大会が終わった翌日、出張を一日延ばしてあれこれ自由に話し合ったのを憶えています。

 秋富 それ以来、京都と東京で交互に、対面の編集委員会を十一回しています。そのつどレジュメと議事録のすごい束ができましたね。

 古荘 そして昨年(コロナ禍に入って)からはZoomによる打ち合わせを重ねました……。

 秋富 Zoomだからこそ参加できるという委員もいて、自ずと開催回数が増えました。刊行前の二か月間は、毎週のように打ち合わせをしましたね。

 ただ、この事典には協力者を含め一三〇名を超える執筆陣がいますので、作業そのものは最初からどうしても遅れ気味になりました。執筆者にはそれぞれ原稿を校正してもらいましたが、集まった原稿を全体で通して見てみると、初歩的な訳語の不統一や思いもよらない内容の不整合が見つかりました。個々の解説(論考)に関しては執筆者も編集委員もチェックしているのですが、事典全体として見たとき、そして索引作りを行うときに、いろいろな問題が出てきて大変でしたね。<つづく>

本編のつづきは以下で読めます


★たかだ・たまき=大阪大学名誉教授。訳書にハイデガー『存在と時間』など。一九五四年生。

★あきとみ・かつや=京都工芸繊維大学教授。著書に『芸術と技術』など。一九六二年生。

★ふるしょう・まさたか=東京大学教授。著書に『ハイデガーの言語哲学』など。一九六八年生。