日本社会の下流化を防ぐ政策を

三浦展インタビュー

三浦展著 『大下流国家 「オワコン日本」の現在地』(光文社新書)を中心に



 消費社会研究家の三浦展氏が『大下流国家 「オワコン日本」の現在地』(光文社新書)を刊行した。ベストセラーの『下流社会』から一六年経ち、日本社会の階層ごとの政権評価、生活満足度や価値観の実態を、三菱総合研究所の「生活者市場予測システム」の調査(と追加調査)に基づいて詳細に分析した一冊である。本書と日本社会に対する提言についてお話を伺った。(編集部)
≪週刊読書人2022年1月7日号掲載≫



安倍政権への評価が高い理由

 ――本書の依拠する「下流社会15年後研究会」の調査(「日本人の意識と価値観調査」)の準備、構想はどのように進められたのですか。

 三浦 「大下流国家」というテーマで本を書こうと思ったのは二〇二〇年の五月ですが、この本のベースになっている、今回の「日本人の意識と価値観調査」(同年一一月実施、調査対象は日本在住の二五歳~五四歳の男女二五二三人)は三菱総研が毎年行っている三万人調査に追加する形で行いました。

 とくに気になっていたのは、二〇一二年一二月から約八年続いた、安倍政権に対する日本人の評価です。その人気が高かった理由を知りたいという目的がひとつありました。

 ――本書の調査と分析から、年収が高い若い男性をはじめ、生活が豊かになったことを実感できる人は安倍政権への評価が高いことが伺えます。

 三浦さんは安倍政権に対して批判的ですが、経済的な観点からは、安倍政権をどう評価されているのでしょうか。


 三浦 年収が高いと安倍政権への評価が高く、年収が低いとその評価が低いというデータが出ました。安倍政権の評価が、貧富の実感ときれいに比例しています。しかし年収の低い人も評価する人のほうが評価しない人より多いという結果は驚きでした。それほど安倍政権への評価は高いのです。

 ただ、学歴の高い人で非正規雇用の人、とくに女性は、安倍政権への評価が低く、また右翼的な思想にも反対な人が多い。年収の高い人にも安倍政権評価が低い人もいて、おそらく思想的な部分に反対する人がいるということに、私としてはほっと胸をなでおろしましたね。

 年収が高い人が安倍政権を評価するのは当然といえば当然です。ビジネスをやっていく上では、世界中の企業と仲良くして、経済活動をして儲けなければなりません。稼ぐ意欲のあるビジネスマンにとって、あくまでも経済活動を順調に営ませてくれた政権だったということです。

 安倍政権の右翼的な思想に共鳴しているのは、中年層の一部の男性であることも今回の調査からわかります。若いころから小林よしのりを読んだりしてきた男性ではないかと思います。若い人たちが保守化していると言われますが、必ずしも右翼化しているというわけではなく、自分たちがいい大学に行って、いい会社に入って、いい給料もらって生活が安定していることを重視しているということでしょう。安倍政権を評価している人は、決して思想的な部分を評価しているわけではないのです。

 一方で、人文社会科学系のインテリ層の女性は、安倍政権を評価していません。とくに女性にそういう傾向が強いのは、学歴の割にそれ相応の年収を得ていないという理由によるかもしれません。公務員の非正規雇用も増えています。<つづく>

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★みうら・あつし=消費社会研究家。一橋大学卒業後、パルコ入社。「アクロス」編集室、編集長を経て、三菱総合研究所入社。一九九九年にカルチャースタディーズ研究所を設立。著書に『首都圏大予測』『第四の消費』『愛される街』など多数。一九五八年生。