自分を生きるように勇気づけられる言葉

対談=畑中麻紀・森下圭子

ボエル・ヴェスティン著『トーベ・ヤンソン 人生、芸術、言葉』(フィルムアート社)刊行を機に



 翻訳者の畑中麻紀さん、ヘルシンキ在住で翻訳や通訳、現地視察のコーディネートを行っている森下圭子さんの翻訳で、ボエル・ヴェスティンさんの評伝『トーベ・ヤンソン 人生、芸術、言葉』(フィルムアート社)が刊行された。刊行を機に、本書やトーベ・ヤンソン(一九一四-二〇〇一)、ムーミンの魅力について対談してもらった。(編集部)
≪週刊読書人2022年1月21日号掲載≫




ムーミンとの出会い/ヤンソンへの関心

 畑中 幼少時に昭和のムーミンアニメを観て育ち、小学生で原作に出会って読むようになりました。その時、作者がトーベ・ヤンソンであることや、原書がスウェーデン語で書かれていることも知りました。それ以来、一読者として過ごしてきましたが、色々な偶然が重なって、トーベ評伝と新版ムーミン全集の翻訳に携わることになりました。

 ただ、今でも私はトーベ・ヤンソンの一ファンだと思っています(笑)。

 森下 小学生の頃から、トーベの作品がスウェーデン語で書かれていることを知っていたのですか。

 畑中 小学六年生の頃、原作の本の「訳者あとがき」で知りました。ムーミンのシリーズは、当時からとても良い日本語訳だったので、原書ではどのように書かれているか、気になっていました。

 うちの父は学生の時にスペイン語専攻で、父のような普通のおじさんでも外国語ができるのなら、自分にもできるかもしれないと思いまして。

 森下 私も、昭和のムーミンのアニメーションを観ていましたが、当時は外国語のことなんてまったく考えていませんでした。私が最初に出会った本は、トーベ・ヤンソンの原作ではなくて、そのアニメから作られた絵本でした。その世界に没頭していましたね。原作を読んだのは小学生になってからですが、それほど強い印象はもっていなくて。外国語で書かれたかどうかも気にしてない子どもだったので、当時は自分がフィンランドに来ることになるなんてこれっぽっちも思っていませんでした。

 中学生以降は、ほとんどムーミンに触れていませんでしたが、大学生になって、暗黒舞踏という前衛の芸術にすごくハマったんですね。大学生の時、世の中の価値観と自分の価値観との間にずれを感じるようになって、ふと子どもの頃に読んだ本を読んでみようかと。で、図書館に行って、再会したのがムーミンだったんです。うわっ、こんな文学があったのかと感激したんです。作品からあぶりだされる哲学というか価値観に衝撃を受けました。これが書かれた環境に身を置いてみたい。その思いがどんどん強くなりました。ムーミンの世界観ってトーベ・ヤンソンひとりのものではなくて、彼女が生まれ育ったところと深い関わりがあるのではないか。なのでフィンランドっていうものを体験したくて、そこからトーベ・ヤンソンを見てみたくてフィンランドに来たんです。

 麻紀さんはどちらかというと言語への関心が強く、私は彼女のアイデンティティ、生まれ育った環境に関心がある。そんな違いがあって面白いですね。<つづく>

本編のつづきは以下で読めます


★ボエル・ヴェスティン=ストックホルム大学名誉教授。専門は比較文学・児童文学。一九五一年生。
★はたなか・まき=翻訳者。『新版ムーミン全集』の改訂翻訳を手がける。一九六七年生。
★もりした・けいこ=翻訳者・通訳者。ヘルシンキ在住。ムーミンとトーベ・ヤンソンの研究を続けている。一九六九年生。