目次

    Part1

    Part2

超高齢社会の新時代、男も女も老いを生きる

対談=樋口恵子×田原総一朗
『老~い、どん!』(婦人之友社)刊行を機に

Part2


『老~い、どん! あなたにも「ヨタヘロ期」がやってくる』
著者:樋口恵子
出版社:婦人之友社
ISBN13:978-4-8292-0914-1



女性の社会的地位向上のために

 田原 樋口さんは大学卒業後、時事通信社へ入社し、それから学習研究社、キヤノンでのご勤務を経て評論家になられましたね。

 樋口 当時は女の評論家の多くが大手マスコミ出身でしたが、私はキヤノンという普通の会社に数年勤めさせてもらったおかげで、日本の働く女性の実態を肌で感じることができました。企業というのは、「働きすぎ」な労働者を作り出す悪い面もありますが、窮地に陥ったときに支えてくれるのは会社の人たちであり、勤めがあるから生きてこられたのだと思います。
 人間というものはその場にいる人とのコミュニケーションの質によって、自分の生きる人生の質も上がったり下がったりするわけですから、会社には大変感謝しております。

 田原 そこが樋口さんの主張ですね。つまり、個人の自由は認めながら企業の在り方も認める。

 樋口 「大の男」が半生を捧げる企業が人間性に沿ったものでなかったらあまりにも恥ずかしいし、無惨じゃないですか。私は企業性悪説と言う人も資本の論理のなれの果てとしてわかるけど、だけどその中でもいい経営を心掛ける経営者もいるだろうし、心ある管理職はいい職場にしようとしていると思うし、社会の中枢を支える場に、よい人材がいるように心から願っています。甘いですか?

 田原 なるほどね。ところで樋口さんが物を書く目的は何ですか? 何のために書きますか?

 樋口 それはやはり一種の使命感はあったと思います。

 田原 どういう使命感ですか?

 樋口 それはもちろん、自分の幸福追求と女性の地位向上です。全体の幸せに繫がると確信しています。

 田原 樋口さんはNPO法人「高齢社会をよくする女性の会」の理事長を務められていますね。

 樋口 私は素人ながら人口論とか家族社会学に若いときから関心をもっていました。当時は、日本の人口構造が一億人にどんどん向かっていく一方で少子化は始まっているという中、平均寿命が二倍近くになっていく時代でした。その中で家族構造も変わっていく。そういう中で今日本が色んな政策転換をしないと大変なことになると思いました。特に日本の女性の在り方が鍵を握ると思いました。たしかに終戦で女性の地位は変わり、大学進学も男女平等になりました。だけど基本的なところは変わっていないですよ。

 田原 憲法上は男女同権です。女性の参政権はできたけれども実際社会の中ではどうですか?

 樋口 性別分業、男は仕事、女は家事育児という前提のもと女性の労働が可視化されないということと、家父長的家制度が残っています。だから今、日本女性の地位が世界ランキングで一二一位(「世界ジェンダー・ギャップ報告書二〇二〇」より)です。

 田原 韓国も台湾も女性大統領が出ています。アメリカでも大統領候補に女性が挙がります。

 樋口 そうです、日本は一番遅れているんじゃないでしょうか。若いころの話をすると、実は私の先夫・亡くなった夫の影響もありました。夫と結婚し、仕事を辞めて社宅妻の生活を送っていたらある日、夫から「僕らは国民の税金で大学を出ていて、しかもあなたの年頃では女で大学に行けた人は一割もいないはずだ。今は僕の社宅妻で何もできないだろうけど、いずれ東京へ転勤になるだろうし、そうしたらあなたにできることはもっとあるはずだ。その時のために今は勉強しておいたらどうだ」と言われたのです。私は七年間の結婚生活の中でその時だけ初めて座り直して「はい」と言いました。そう言われて、なんという恥ずかしい生き方だと思って勉強し始めたのが、個人的な理由です。男に動かされたようで癪ですが、よい人に出会えたと思っています。

 田原 その後、実際にどういう勉強をされたのですか?

 樋口 新聞で見つけて婦人問題懇話会(現:日本婦人問題懇話会)という田中寿美子、山川菊栄先生たちが始めた女性問題の研究サークルに入りました。会合へ行ってみると、生涯の先輩である赤松良子さんと出会いましたし、当時は珍しい東大卒の女性の幹部職員候補たちが多くいたので、結果としてはごく気楽に参加できましたが、出かけたきっかけはあくまで新聞の一段記事です。

 田原 なぜ日本は女性が政界でも企業内でもこんなに差別されているのですか? 先進国で最下位なのはなぜですか?

 樋口 性別分業、これが根強いです。

 田原 なぜそうなるんですか?

 樋口 女も本当に変えようと思う人が少なかったんですね。私は若い人には絶望しないでくれと励ましています。五年単位では変わらないかもしれないけれど、五〇年単位で見れば明らかに変わっています。変えようと本気で思う人が増えればもっと速いでしょう。

 田原 でも他の国ではどんどん女性の地位が上がっているのになぜ日本ではあがらないんでしょうか?

 樋口 やはり方針決定の政治の場に出ていないからですよ。政治の場に出られないのは、はっきり言って家父長制です。

 田原 女性の国会議員の数を三~四割にしようとかいう話もありますね。

 樋口 我々もクオータ制にということを常に言っています。それでも変わらないのは、はっきり言って日本の女性がある程度、幸福感が強いからだと思っています。ある程度ですが。
 私は石原慎太郎さんが知事に就任する前の東京都の男女平等参画委員会の会長でしたが、石原氏の部下の米長邦雄氏に首を切られました。平成一二年四月一日に東京都男女平等参画基本条例が施行されましたが妥協の産物です。


貧乏ばあさん(BB)問題

 田原 年を取った女性は厚生年金に入っていない方が多い。生活の問題がありますね。本書でいう「BB」、貧乏ばあさんです。

 樋口 よくその言葉を覚えてくださいました!BBというのは私たちの造語です。

 田原 この問題はどうしたらいいの?

 樋口 やがて女性のほとんどの人たちが働いて厚生年金を持つまでの間は、補足給付(特別年金として給付)してもらわなければ女性とくに単身者の老後の貧困は続くでしょうね。

 田原 貧乏ばあさんってどれくらいいますか?

 樋口 日本の六五歳以上の人口は二〇四〇年には三五・三%になる見込みですが、平均寿命の長い女性は多数派を占め、六五歳以上で人口の五六・六%、七五歳以上六〇・七%、八五歳以上六九%と高齢になるほどその比率を増します。
 また一〇〇歳以上の老人が八万人にもなっていて、そのうちの八八%が女性です。ですが、女性の厚生年金の加入率は男性より半分以下であると同時に、年金額も男性一六万六千円に対し女性一〇万三千円と低いです。女性は、介護や育児のたびに仕事を中断せざるを得なく、細切れ勤務ですから。年金が老後の柱なんて言うけれど、厚生年金のない女性は本当に貧乏です。生活保護で支えていくという考え方もひとつだと思いますが、しばらくは年金機構の中から拠出するような形で補填すべきだと思います。

 田原 そういうことを今女性で強く菅義偉首相に言えるのは誰ですか?

 樋口 年金の専門家もいるはずです。大沢真 理さんとか。女性の政治参画については、上智大学の三浦まりさんはじめ女性研究者が一生懸命やっていますし、女性たちも赤松良子さんを中心としたWIN WIN(ウィンウィン)、Qの会、赤松政経塾などグループを作って活動しています。

 田原 では菅さんに言います、樋口さんに会えって。

 樋口 どうぞ言ってください(笑)。

 田原 会いますか?

 樋口 あちらから拒否されますよ。視点の違う女性の話を聞いてほしいです。最後に今日、田原さんに聞きたかったのは、男の老いは女の老いと比べて、どういう風に考えています?

 田原 男はなまじっか就職して定年があるから、定年後の生き方をほとんどの男が考えていないんですよ。

 樋口 だから第二の義務教育でやりましょうよ。

 田原 やりましょう、ぜひ! (おわり)

★ひぐち・けいこ=東京大学文学部卒業後、時事通信社、学習研究社、キヤノン株式会社を経て、評論活動に入る。東京家政大学名誉教授。NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長。一九三二年生。

★たはら・そういちろう=ジャーナリスト、評論家。「朝まで生テレビ!」(テレビ朝日系)、「激論!クロスファイア」(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演や著書多数。最新刊『90歳まで働く』(クロスメディア・パブリッシング)。一九三四年生。