「分からない」を愉しむ文学評論

対談=竹内康浩・阿部公彦

編集室から

 阿部氏の解説を含め、一冊のミステリを読んだ後のような読了感を覚えた。なぜシーモア(≒若い男)は突然自殺したのか。動機が不明のまま銃声で閉じられた物語には、初読の際とても困惑させられた。よく分からない話であると、首を傾げた記憶がある。

 だから、本書を読んでその謎が解けたときの衝撃と快感はひとしおだった。「本当に自殺だったのか?」という根本的な部分を問い直し、サリンジャー作品全体から考えなければ、男の死は解き明かせないものだったのである。竹内氏と朴氏以外には解けなかった謎だと、言い切ってもいいのではないだろうか。二人の文学探偵の思考をヒントにもう一度、「バナナフィッシュにうってつけの日」から〈グラス家サーガ〉、『ライ麦畑でつかまえて』まで、時間をかけて読み直したい。(N)