東京と生活史に導かれて

対談=岸政彦×古田徹也

編集室から

 本対談では大変豊富な議論が展開されたが、その内容をうまくまとめようとしすぎてしまったように思う。上京後の新鮮な感覚に何人かの方が触れていて、共鳴しながら拝読した。本書に収められたいくつかの語りは、その途中でやや唐突に終わってしまう。それでも一万字のなかに、その人の生活の痕跡がたしかに刻まれている。『東京の生活史』で大切にされているのは、何かを知的に学ぶよりも、何かを感じ取るということだと思う。

 NHKのETV特集「私の欠片と、東京の断片」で、聞き手の村松賢さんが語り手の男性に本書を手渡したとき、「俺には腹の足しにもならないが、わかった、あとでゆっくり読むよ」とおっしゃっていたのが忘れられない。「聞きたいことがあったら聞いて」と「あまり言いたくない」の間で、語りと記憶と心情は揺れる。過去の生活の内実とそれに向き合った語りが人を支える。実感の込められたいくつものエピソードが静かに心に響きわたってくる。(T)