データの世紀
著 者:日本経済新聞データエコノミー取材班(編)
出版社:日本経済新聞社
ISBN13:978-4-532-35841-9

データエコノミーとのつきあい方

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

原田淳子 / TRCデータ部
週刊読書人2020年2月14日号


 GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)と呼ばれる巨大IT企業のサービスは、私たちの生活に欠かせないものとなっている。検索を始め、メッセージのやりとり、買い物、写真の保存、動画視聴、決済代行、資料の共有など便利な機能の多くをタダで使える。どうして無料なのかといえば、GAFAのような企業に広告を出す人や会社がいるからだ。

 みな薄々分かっているが、大手IT企業は、膨大な利用者の個人データを集めている。それを巧みに加工して、広告を出す側が効果的に使えるようにする。自分の属性や関心事を見透かすようなターゲティング広告が次々と表示されて、便利なような気味悪いような感じをもったことがある人も多いと思う。

 個人のネット上の行動、企業の生産や物流が生み出す膨大なデータ資源は「21世紀の新たな石油」といわれる。日経新聞の記者たちは、私たちがデータエコノミーの渦中に、もう巻き込まれていることを身近な話題から知らせてくれる。就職情報サイト「リクナビ」が、会員登録した学生について「内定を辞退する可能性」を算出し、各企業に販売していた問題をはじめ、ターゲティング広告、AIによる格付け、顔認証技術、フェイクレビュー、巧妙な偽動画を作るディープフェイク技術など、その仕掛けが明かされてゆく。記者たちは正面からIT企業に取材し、また自ら実験台となって「私の視点」から最新の情報技術や情報サービスの複雑な仕組みに切り込んでゆく。

 GAFA断ちを試みた記者は、仕事の生産性が3分の1以下になったばかりか、友人にもあやしまれ孤独を感じる。匿名で位置情報を公開している人を追うと、半日で本人を特定できた。クラウドサービスで家族と共有した住宅の設計図やローン書類は、いつまでもグーグルのサーバに残っている。IT企業側は、多種多様な個人情報を分析し個人のスコアをつけることができる。顔認証の登録がされている高評価の人物は、文字通り顔パスで買い物ができる。一方、低い評価がついてしまった人は、多くのサービスから締め出される可能性がある。問題はどんな個人データが集められ、どこに渡され、誰がどんな基準で評価しているのかが、非常にわかりにくいことだ。こういうことを問い合わせた時の企業の対応はとても冷たい。データの誤りや問題点を指摘した時の応対も鈍い。

 無料で使える便利なサービスは、大切な個人情報と引き換えなのだ。知らず知らずのうちに内面までプロファイリングされ、信用力をスコアリングされるのはいやだ。他方、データエコノミーは働き手不足や環境問題の解決に寄与できるだろうし、情報技術は弱者や少数者を守ることができるはずだ。私という個人はデータ資源のカケラであるとともに、その資源をどう使うか考える人でもありたい。違和感や疑問から逃げないで、データエコノミーとつきあってゆく時代が来ている。