ダークウェブ・アンダーグラウンド
著 者:木澤佐登志
出版社:イーストプレス
ISBN13:978-4-7816-1741-1

ネット監視社会の裏側でダークウェブの住人たちは自由を求める

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

橋本昂彦 / TRC営業デスク
週刊読書人2020年2月14日号


 著書はブログなどでインターネット文化や思想について執筆活動を行っている文筆家である。本書のほかにも『ニック・ランドと新反動主義』(星海社新書)があり、とりわけニック・ランドの暗黒思想について造詣の深い作家である。本書でもニック・ランドの思想とダークウェブの関係について一章を割いており、現代思想と昨今のインターネット世界の暗部について論じている。ランドの思想は「新反動主義」と呼ばれるものである。大雑把に言うと、民主主義における不自由からの脱却(反動)を目指すための思想主義である。政治や宗教、社会といった制約から抜け出し、個人的自由を追求するのが新反動主義の試みである。こうした過激なランドの思想は、インターネットが端緒となっている。インターネットにより、私たちの生活、文化、経済、社会、政治への向き合い方は劇的に変化した。そうした変化の裏に潜んでいるのがダークウェブという存在だ。

 私たちは日々、PCやスマートフォンで検索を掛けている。しかしその暗部には混沌とした世界が広がっている。人間社会にも表と裏があるようにネット世界にも当然裏の世界が存在する。それがダークウェブだ。ダークウェブの世界は高度に暗号化されており、追跡が不可能になっている。私たちが普段使っているサイトでの検索履歴はオープンソースとなっており、一定の要件を満たしていれば誰でも追跡が可能になっている。しかしダークウェブではそれらの追跡をするためには固有のカギを持っていなければならない。その情報を知り得るものはそのカギを所有していなければならないため、このシステムを利用して犯罪や人身売買が行われたりする。ダークウェブというものはなぜ生まれたか、それは「自由」というものを求めた結果にある。先述の通り、私たちのネットでの動向は監視されている。GAFAは顧客データを利用してビジネスをしている。こうした監視社会から抜け出し、自由な発言、自由な議論を行いたいという自由主義運動の産物がダークウェブなのである、と著者は言っている。

 2020年には5Gが始まりIOT化が進むが、同時に監視も進む。スマート家電を導入している世帯では何時に起床し、就寝するかすら把握されてしまっているかもしれない。そうした社会に息苦しさや気持ちの悪さを感じている人たちが生み出した、息抜きの場所であるともいえるだろう。喉が渇いたら水を飲むのと同じくらい当たり前の行動として私たちはインターネットを利用している。しかしその裏側では渾沌とした世界が広がっている。法も秩序もモラルもない。誰からの干渉も受けないで済む世界がそこには広がっている。恐ろしくも甘美に感じる世界が広がっている。ダークウェブの世界を知るための本としても勿論有効な本ではあるが、ネットと現実の境界が薄れていく現代社会において、現実を俯瞰するためにも有意義な良書である。