13歳からのアート思考 「自分だけの答え」が見つかる
著 者:末永 幸歩
出版社:ダイヤモンド社
ISBN13:978-4478109182

「自分の思考」を取り戻す

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

伊藤 英梨 / TRC データ部
週刊読書人2020年6月5日(3342)号


実に疲れる本である。だが、その疲労感は爽快だ。本書を開いている間、「どう思うか」「なぜそう思ったか」「そこから何を思うか」問われ続ける。その問いに対して、答えを出さなければならない。自分が普段いかに何も考えずに人の言葉を鵜呑みにし、理解した気になっていたか、よくわかった。そして、自分なりの方法で物事を見て自分の答えを見つけ出す過程がどれだけ刺激的で楽しいことかも。
 
本書は美術鑑賞の指南書ではない。自分の思考法を、自分で確立する方法を模索するための本だ。タイトルにある「アート思考」。著者はそれを「「自分だけの視点」で物事を見て、「自分なりの答え」をつくりだすための作法」と定義する。本書はその思考の方法を、知識として得ることではなく、“体験する”ことを目的として書かれている。そのため、ただ漫然と書かれていることを目で追って納得した気になるだけでは、本書を読んだとは言えない。随所に登場するエクササイズや問いかけに、能動的に“取り組む”姿勢が不可欠だ。と、このように書くと美術に苦手意識を持つ人は敬遠してしまうかもしれないが、心配はいらない。最も「すばらしい」と思う自画像を選ぶ、できるだけ「リアルに」サイコロを描いてみる、「ピカソの絵にダメ出し」をしてみる、ラクガキの共通点を探す……など、問いかけは多様で、次はどんなものが?とワクワクするものばかり。著者は美術教育の研究員であると同時に中学・高校の美術教師である。生徒の一人として授業に出席する感覚で、無理なく思考を深められる構成になっている。
 
本書の中でアートは植物に喩えられる。「興味のタネ」から「探究の根」を伸ばし続け、ある時に「表現の花」を咲かせるアートという植物。その植物の大部分を占めるのは「探究の根」。著者が繰り返す、「興味のタネ」と「探究の根」こそがアートの本質だという言葉からは、読者に向けた「好奇心の赴くまま、恐れずに進もう」というメッセージを感じた。
 
本書を通じて得た思考法はなにもアート作品を見る時にだけ役に立つというものではない。生きていく全てに関わるものだ。体験するのとしないのとでは、その後の生き方が大きく異なるだろう。
 
もっと早く体験したかったことを思えば10代に手渡したい本である。一方でアート思考とは遠いところにきてしまった自分のような大人にこそ手にとってほしい本でもある。表面だけを見て判断してはいないか。人の解説を読んで納得した気になり思考を止めていないか。その感想は本当に自分のものなのか。凝り固まった脳をほぐすのは容易ではない。しかし、自分なりのものの見方を取り戻した時、見える世界は変わる。