世界から消えゆく場所 万里の長城からグレート・バリア・リーフまで
著 者:トラビス・エルボラフ(湊麻里訳)
出版社:日経ナショナル ジオグラフィック社
ISBN13:978-4863134676

移り変わり失われていくものの儚さ

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

落合智美 / TRC 仕入部
週刊読書人2020年6月5日(3342)号


打ち捨てられ廃墟となった炭鉱町、湖に沈んだ都市、環境破壊で消滅寸前の森林や川…。本書では、世界37か所の消えてしまった(あるいは消えゆく)場所が地図と写真で紹介されている。衝撃的だったのは、今まさに消えようとしている「世界の名所」が数多くあるということだ。ロッキー山脈の美しい氷河は暖冬化により着実に失われつつあり、万里の長城は明時代に築かれた要塞の30%が自然浸食や人的原因により喪失した。観光地として世界に名を馳せる水上都市ベネチアは、度重なる洪水による地盤沈下で今後30年以内にはほとんど居住が難しい場所になるとの見方もあるそうだ。現代の生活は新しい人・モノ・情報で常に刷新されていく。あっという間にあらゆるものが古くなり、代替する何かと入れ替わっていく。世界の名所が姿を変えた時、私たちはいつまでその存在を記憶にとどめていられるだろうか。どんなものも失われず、損なわれずに存在し続けることはできない。普段意識しない「当たり前」をまざまざと見せつけられるような1冊だ。