製本大全 裁つ、折る、綴じる。 知っておきたい全技術
著 者:フランツィスカ・モーロック、ミリアム・ヴァスツェレフスキー
出版社:グラフィック社
ISBN13:978-4766131529

本を処分できないのは、本それ自体が美しいから

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

大川 正人 / TRC 電算室
週刊読書人2020年6月5日(3342)号


客観的にみて、私はわりと蔵書を抱えているほうなのだと思う。蔵書が万単位に至っている知人が幾人もいるため危機感に欠けてはいるが、なるべくなら数を減らしたほうがよいことは理解している。しかしなかなか減らせない。希少なテキストだからという真っ当な事情とは別に、同じ内容を複数の判型で持っているのに減らせないという場合もしばしばある。カバーに穴あき加工がされていたり、遊び紙にセロファンや特殊紙が使われていたりするともう手放せない。物珍しいからというのではなく、美しさを感じているからだというのが、自身の感情としては最も腑に落ちる言い方だ。もっと端的にいえば、その本のことを愛でている。  ブックデザインを造本・装丁・本文レイアウトに粗く分類してみて、本書は造本の工程のガイドブックにあたる。本文印刷済の紙を、折って綴じて小口を裁ち整え表紙をつける、その手法をまとめるものだ。手法それぞれの製作上のメリット・デメリットを整理していて、ブックデザイナーの卵だとか、出版社の資材部と呼ばれるような部署の新人がその傍らに置くことを企図している。原本は活版印刷の祖グーテンベルクの故国ドイツで刊行されたものなので、〈ドイツ装〉など欧州ではポピュラーだが日本では馴染みの薄いだろう手法も紹介されている。日本での類書としては関根房一『製本加工はやわかり図鑑』(日本印刷技術協会)をおすすめしたい。  本の基本的な構造そのものは紀元前から変わらないから、上製本と並製本が紹介されるだけでしょうと高をくくる方があるかもしれない。しかし本書で「今」を知ることで、歴史を知りたくもなるだろう。例えば現代の並製本のほとんどで採用されている無線綴じは、戦後に製本用接着剤が進歩してこそ広く普及した、ごく最近の技術だとどれだけ意識されているか。ここ五年ほどでは国内の図録・画集・写真集にコデックス装(背表紙を廃して頁が百八十度まで開くようにし、見開きの図版全体を見易くする技法)が多く採用されるようになっているが、これなどはまさしく同時代の技術革新に立ちあっているわけである。  技術書とはいえ、読書を趣味とする方ならば眺めて楽しい心躍る一冊だ。読んで蔵書が増えることになってしまっても、私は責任を負えないけれど。