瀕死の統計学を救え! 有意性検定から「仮説が正しい確率」へ
著 者:豊田 秀樹
出版社:朝倉書店
ISBN13:978-4254122558

統計学をよりよい道具として用いる

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

多良 幸恵 / TRC データ部
週刊読書人2020年6月5日(3342)号


有意性検定は、研究結果が統計的に意味のある差を持つかどうか、言い換えると「統計学で確率を計算したところ、(本当は差がないのに)その結果が偶然出たとは考えにくいかどうか」を判定する手法である。大学で実験系の専攻にいた人なら、卒業論文やレポート課題で一度は使用したお馴染みの手法ではないだろうか。  しかし、近年では論文の採否においてこれが重視されすぎたため、統計的に意味のある差を出すこと自体が目的化し、科学的には無意味な論文が大量に公刊される要因ともなった。事態は非常に深刻で、アメリカ統計学会は2016年に科学的な結論や決定は統計的に有意かどうかにのみ基づくべきではないと声明を出した。有意性検定の生みの親である統計学の側から、その使用禁止を求める声が挙がったのだ。この事態を著者は、統計学メーカーが自社主力製品のリコールを宣言した状況になぞらえて、有意性検定の使用を痛烈に非難している。  本書では統計学者である著者が、従来の有意性検定が抱える数多くの問題点を解き明かし、それに代わる指標として「仮説が正しい確率(PHC)」を用いる重要性を解説する。  有意性検定で用いる指標の「p値」は定義が非常に複雑かつ難解であり、抽象的で理解しにくい。統計学の専門家の著者も、学生に「p値を理解してもらうことに、もうほとんど絶望しています。」と語るほどだ。さらに有意性検定は、標本数が多すぎると科学的には無意味な差でも統計的には有意になってしまう厄介な性質がある。本書では様々な場面を検討しながら、他にも数多ある有意性検定の問題点を「ゾンビ問題」「神の見えざる手」など特徴的な名前を付けて解説していく。  それに対し、PHCを用いれば、調べたい仮説が正しい確率(例えば、「新薬Aを投与された患者の回復が○○日早くなる確率」など)を直接示すことができ、直感的な理解が可能である。調べたい内容に合わせて分析方法を様々に工夫するのも、有意性検定の場合よりずっと容易だ。またPHCは標本数が膨大な場合にも問題なく使え、データ数が多いほど結果が明確に出る。この性質ゆえ、PHCはビッグデータ解析にも用いることができる。それ以外にもPHCを使用するメリットとPHCによる統計解析の方法論が、本書第2部・第3部では詳細に解説されている。  本書の解説文は非常に簡潔だがかなりのボリュームがあり、多種多様な統計用語や式・記号がふんだんに使われる。そのため、ゼロから統計学を学ぶ人にはとっつきにくく感じるかもしれない。だがもしも読者が今後自分で調査研究を行い、統計学的手法で仮説の正しさを調べたいなら、統計学の基礎を避けては通れない。一度は本書を読み通し、統計学をよりよく用いる方法を知っておくべきだろう。  実験系の学生や研究者だけでなく、アンケート調査やデータ解析を行うコンサルティング・マーケティング業務の従事者にとっても価値のある一冊である。PHCの考え方は、調査研究の大きな助けとなるはずだ。