LGBTヒストリーブック 絶対に諦めなかった人々の100年の
著 者:ジェローム・ポーレン
出版社:サウザンブックス社
ISBN13:978-4-909125-18-7

LGBT問題を語るための入り口として

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

重田智恵美 / TRC物流管理部
週刊読書人2020年4月3日号(3334号)


どんな社会的運動にも、積み重ねられてきた歴史がある。考えてみれば、同じ人権運動でも黒人解放運動や女性の参政権運動などは教科書に記載があるのに対し、LGBTに関する記載はそれほど見当たらないのはなぜか。彼らの存在は、最近になって明らかになった存在ではないだろう。そういった中で公民権運動という視点から、これまでのLGBTの歴史を初めてまとめたものがこの「LGBTヒストリーブック」である。子どもたちにとっての教科書となる本を作りたかったという著者の思いのもと、数多くのビジュアル資料や約400人にも及ぶ人物のエピソードがそれぞれの人生の重みを表すかのようにふんだんに盛り込まれている。すでに出版されているLGBTとの付き合い方や理解を促すような書籍とは一線を画し、そのリアリティーの濃さが子どもだけでなく大人も満足できる要因の一つになっている。教科書らしくない部分があるとすれば、人の思いや考えといった、深く掘り下げたところまで解説している点だろう。ある人は自分自身の名誉と作品を守るため。ある人は息子に何かあった時そばにいられるため。様々な思いを抱いた結果として、多くのデモや運動、歴史的裁判は生み出されてきた。なぜ、どのようにしてその人物は行動したのか。そのことを意識して読むことによって、過去に生きた人物の存在をより身近に感じられるという効果を生んでいる。

本書は、その歴史を100年に限定し、セクシュアルマイノリティーの人々がどのようにして平等な権利を獲得してきたのかについて語っている。かつてホロコーストや赤狩りなどのように、人々が弾圧の脅威にさらされた時そこには必ずと言っていいほど、LGBTの人々の犠牲があった。それほど、人権運動において彼らの存在が切り離せないものであったということが、本書を読めばよく分かるだろう。だが、LGBTに関する100年の歴史を一冊の本にまとめることは容易ではない。100年前は、当事者たちが例えば「私は同性愛者である」と明確に記録を残していることは稀で、またそういった事実は多く語られていないどころか、むしろ隠され見ない振りをされ続けてきたのだから。だからこそ、本書が出版されたこともまたLGBTの歴史における一歩なのである。そしてこれからの歴史の当事者となりうる子どもから大人、すべての人々に向けて。彼らの、泥くさくも豊かな歴史を知るための入り口となりうる一冊である。