男らしさの終焉
著 者:グレイソン・ペリー
出版社:フィルムアート社 
ISBN13:978-4-8459-1830-0

「男性性」の現在と未来

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

常千鶴 / TRCデータ部
週刊読書人2020年4月3日号(3334号)


今日、ジェンダー問題の話題を聞くことも珍しくなくなった。既存の性規範や不平等について論じ、その解決策や未来を示そうという本は、やはり女性視点のものが多い。その中でも本書は、変化する世界の中で蔓延る「男性性」、いわゆる男らしさを男性の視点から考察するものだ。

男性性とは男性精神の構成要素である。服装や振る舞い、暴力、感情など様々な分野から語られているが、そのうちの一つに「権力」がある。伝統的な男性性は、男性の振る舞い方を示し、長らく社会の規範・権力の象徴となってきた。自身の基準が社会の規範であることを意識することもなく、当然のものとして享受してきた層を著者は「デフォルトマン」と呼んでいる。「白人・ミドルクラス・ヘテロセクシャル」がそれにあたるとしているが、人種に違いがあっても、このデフォルトマンに該当する人々はどの国にもいるだろう。その層は全体から見れば少数だが、彼らの価値観は世の中の「普通」を定め、特権を手にしてきた。家父長制はその代表格だろう。

公平さが少しずつ推進される現代、そのような権力の在りようはゆっくり変わってきている。これまで自身の属性だけが持っていた権力を女性やマイノリティが所持することに反発する男性は少なくない。しかし、その権力をまとい続けることは本当に男性にとって良いことだけなのだろうか。「男性性」のみが権力を持つことの不健全さ、そして権力に多様性ができることで起きる男性へのメリットにも、本書は言及している。そしてこの話は、男性性が縛ってきた服装や感情の話にも繋がっていく。

著者は異性装者である。幼少期から自身の「男性性」に疑問を抱き、女性の服を着ることに楽しみを覚えた。そして父の失踪、暴力的な継父など、複雑な家庭環境の中でジェンダーの抑圧に苦しんだ過去を持つ。本書でも「読み解くことは難しい」と書かれている、長い歴史から様々なイメージや要素が組み合わさった伝統的な男性性を、著者は自身の立場から容赦なく批判していく。そんな彼の投げかける指摘に、女性である私も「デフォルトマン」などに代表される男性性のイメージを知らず知らずのうちに内面化していないかと考えさせられた。

男性が読んだ場合、本書に書かれていること全てに頷くことはできないかもしれないし、反発心を抱くかもしれない。しかし著者は「男性」を否定したいのではなく、これまで当然の基準だとされていた男性性も、世界に合わせて変化させていく必要があることを提言している。本書の結には、八つの「男性の権利」と銘打たれたものが載っている。「間違える権利」「弱くなる権利」など、それらは全て古い男性性からみてふさわしくないとされてきたことだ。様々なジェンダー問題が根強く残りながらも、少しずつ平等に近づこうとしている現在、本書の語る新たな男性性は今後の考え方や振る舞いに対して一つの答えを示してくれるのではないだろうか。