かがくのとものもと 月刊科学絵本「かがくのとも」
著 者:池田清彦
出版社:福音館書店
ISBN13:978-4-8340-8444-3

「かがくのとものもと」と「かがくのとも」

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

中島創 / 東京都内公共図書館(指定管理者)
週刊読書人2020年5月15日号(3339号)


「かがくのとも」は福音館書店が1969年に創刊した世界初の月刊科学絵本だ。「幼児にはまず、科学のほんとうのおもしろさを知らせ、しかも〈見る〉だけでなく、もっと深くみつめさせ、考えさせなくてはならない…」(発刊のことばより)という強い思いから生まれた。
 
その創刊50周年を記念して出版された「かがくのとものもと」。この雑誌がどんな風につくられてきたのか、執筆者の言葉や挿絵が完成するまでのラフスケッチなどを交え、その工夫が紹介されている。たとえば301号「ぼくのわたしのこんちゅうえん」は1991年7月の企画会議に始まり、テキストを完成させ、挿絵を依頼し、実際に虫を飼育して加筆修正を繰り返し、出来上がったのは94年春だ。大変な手間暇をかけてつくられている。
 
圧巻なのは創刊号からこの本の発行当時の最新刊まで全601冊の表紙とあらすじの一覧だ。これを見るまでは正直、「私はこどものとも派だから、かがくのともはほとんど読まなかったはず」と思っていたが、大間違いだった。「こっぷ」「ざっそう」「はははのはなし」…。懐かしい表紙が並ぶ。「こっぷ」でガラスがぐにゃりと溶けた写真を見た時は、驚きと共に不思議な憧れを感じたものだった。「こっぷはみずをつかまえる」「こっぷはにじがつくれるよ」とテンポよく語りかける文は谷川俊太郎によるものだ。「ざっそう」には、自分が普段摘んだり踏みつけたりしていた草がきれいな絵に描かれていてなんだか嬉しかった。絵で見た草の名を覚え、改めて野原で確認することで、それらの草と自分が何かで結ばれたような気持ちになった。
 
「かがくのとも」の良いところは本を読んで「ふーん」と言って終わりではなく、そのあとに本物を見たくなるところだと思う。特別に有名なものをとりあげていなくても、というよりむしろありふれた身近な生き物だからこそ「そうだったんだ」という驚きがあった。
 
表紙の一覧を見ていて、あれもこれも読んでみたくなった。よし、これから601冊を読破するぞと意気込み、早速手に取ってみる。植物好きな私としてはまず「おおばこ」「ふゆののはらでかれくさつみ」だ。「おおばこ」ではなぜ人が踏んで歩く道に生えているのか、その特徴を示してやさしく解き明かしている。幼いころにおおばこをちぎった時の強さが蘇る。「ふゆののはらで…」には枯れて種をつけた草花が美しく描かれている。ページの中の草の配置が見事でアート作品のようだ。これらの枯れ草はかつてよく目にしたものばかりだが、わざわざ立ち止まることもなく見過ごしていた。しかし、絵本に描かれた草花はひとつひとつが特別な美しさを誇っている。いてもたってもいられなくなった私は、翌日冬の野原に繰り出した。冷たい空気を吸いながら、本に載っていた草をいくつも見つけたのはもちろん、なんだかわからない草の白くなった穂先を揺すって種を飛ばしたり、枯れ草をたくさん舞い上げてみたり、冬でも緑色の葉の手触りを1枚ずつ確かめたり…初冬の野原を満喫した。
 
「かがくのとも」は幼かった私に身の周りに広がる不思議な世界の扉を開けてくれ、大人になった私には、すっかり忘れていたその世界が今もそこに存在し、自分もその一員であることを思い出させてくれた。かつて子供だった人たち、「かがくのとものもと」を開き、表紙の一覧を眺めてほしい。そしてちょっとでも気になった1冊を読んでみてほしい。きっと新鮮な体験ができると思うから。