風になる日
著 者:山田深夜
出版社:双葉社
ISBN13:978-4-575-24206-5

“聞いたことはある”世界を魅せる山田深夜作品集

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

新田祥平 / TRC 東日本支社 営業部
週刊読書人2020年5月15日号(3339号)


爽やかな色彩で描かれた道と景色の装画に加え、「風になる日」という清々しい印象の書名から手に取った本書。しかし、収録されている5編の物語は、清涼感あるパッケージからは想像の付かないものであった。
 
著者は私鉄職員として20年のキャリアを持ち、その経験を活かして執筆し吉川英治文学新人賞候補作となった『電車屋赤城』や、「本の雑誌」において2005年上半期ベスト10に入った『横須賀Dブルース』等を著作として持つ。作品の傾向として、電車やオートバイ等、趣味性の高い分野をモチーフとすることが多い。
 
本書の場合は収録作品すべてにオートバイが登場し、冒頭の物語「リターンズ」では、ファンタジーとしての仕掛けの一部として起用されている。地元福島で親友と恋人を取り合った末に敗れ、高速バスで逃げるように上京する主人公の前に現れた奇妙な少年。主人公の隣に乗り合わせた彼は、不思議なことにサービスエリアの休憩の度に年を取っていくのだが、その原因にオートバイが絡んでいる。またこの物語は、終盤に明かされるトリックによってミステリーとしても評価され、日本推理作家協会賞短編部門にノミネートされた。
 
本書は、読み進めると物語の登場人物とオートバイの関わりが大きくなるような順序で短編集が組まれていることが見えてくる。「リターンズ」に続く「エンブレム」では、主人公を窮地から救う存在としてライダーが登場し、3作目「流儀」では主人公自身がツーリング中のライダーだ。4作目「横取り」は主人公がバイク事故で記憶を失い、5作目「風になる日」ではとある人物のバイク事故死が物語のキーとなっている。爽やかな書影を捲ってから、徐々に著者の世界の深みに入っていくかのような作品構成になっているのは興味深い。また、オートバイに限らずワッペン職人やハーモニカ奏者、アマチュア無線愛好家など、特定の世界に熱く生きる人物たちが登場し、各物語に彩りを与えている。このようなニッチなモチーフを材料にして無駄なく配置される伏線には新鮮さがあり、主人公の変化とともに回収されていくプロットも見事。
 
本書は、表層で流れる物語の水面下に、先はわからないものの、どこか前向きで自由へと向かっていくような希望感が漂っている。どの物語の主人公たちも大きな不安や葛藤の中で前へ進み、最後には自分なりの道を見つけ歩みだす。短いながらに心の深い部分に訴えかける棘があり、読み応えのある良著だ。