これからの図書館
著 者:谷一文子
出版社:平凡社
ISBN13:978-4-582-83816-9

経験が示す進化のかたち

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

立石富男 / TRC 九州支社
週刊読書人2020年5月15日号(3339号)


シンプルな書名である。名は体を表す。本書はまさにそうである。これからの図書館がどんなふうに進化していくのか、課題は何なのか、それを平易な文章で具体的な例を示して説明する。国内外の評判の良い図書館の特徴を利用者目線で捉えていて、じつにわかりやすい。実際に現地へ足を運んだ人ならではの適確な叙述である。本書の魅力の一つは、その図書館を見学している著者の興奮や感動が読む側に伝わってくることかもしれない。
 
これまでの図書館は「暗い・汚い・怖い」のイメージだったという。細かい規則に縛られ、高圧的な職員がいた図書館は確かにそんなイメージだ。それが変わり始めたのは二〇〇三年からである。図書館に指定管理者制度が導入され、民間企業が管理運営できるようになった。それから従来の図書館常識や固定観念が打ち破られ変化していったわけだが、端的な例は館内にカフェができ、ゲームもでき、音楽が流れることだろうか。

図書館は建物と資料と人で成り立っている。その中でもっとも重要なのが「人」だと著者は言う。公立図書館司書のあと図書館をユーザーとする企業に長く勤め、館長も経験しているだけに説得力がある。これからの図書館に求められるものは「つくる」「つかう」「かわる」「たのしむ」という章の中で詳しく書かれている。美術館などとの複合化、電子書籍の増加、AIも無縁ではないだろう。図書館員のマネジメント力、コミュニケーション力、レファレンス力、接遇力、IT技術への対応も不可欠だ。つまり、いくら立派な建物・資料があっても、それを活かす「人」がいなければ魅力ある図書館にはならないということだ。

図書館の評価基準は現在もこれからも、基本的には利用する人をいかに満足させるかだろう。しかし究極的には、利用者も働く人も幸福にならなければならない。そのための課題なのである。だから著者は、住民の利用率、地域への経済効果、いじめや虐待や貧困などの問題解決、子育て世代の利用環境、認知症、介護、高齢者などへの対応、そういう視点を持って社会の抱える問題に取り組むことが大事だと言う。地域の経済効果にまで言及するのは意外だったが、集客力が高まり図書館が観光資源化された武雄市図書館の例もある。その後武雄に続く図書館が出てきたのだから、これは文化発信に熱心でない首長を説き伏せるには格好の材料かもしれない。
 
本書には二つの対談も収録されていて興味深いし、著者お勧めの図書館も出ているので楽しさがさらに増す。利用者のみならず図書館関係者も必読の書であるのは間違いない。