最新科学が明かす 明和大津波
著 者:後藤和久
出版社:南山舎
ISBN13:978-4-901427-46-3

明和大津波を科学的知見をもとに体系化

人の痕跡を残す物の記憶と大地の記憶を伝える

本郷宙軌 / 和歌山県職員・地理学
週刊読書人2020年5月29日号(3341号)


明和大津波とは一七七一年(明和八年)に沖縄県八重山諸島および宮古諸島を中心に地震直後に来襲した大津波のことである。今から二五〇年近く前に発生したこの大津波に注目が集まってきている。これは二〇一一年に東北地方太平沖地震が発生したことで、過去の地震や津波に対して関心が高くなってきたことと無関係ではない。さらに、意外と思われるかもしれないが、海外では二五〇年前となると古文書の記録が残っていないことが多い。しかし、明和大津波の様子と被害の状況は当時の琉球王朝によって詳細にまとめられており、将来の発生が懸念されている地震と津波に対して、この記録が防災対策の参考となることが期待されている。
 
本書は一〇章からなり、古文書の研究や考古学、地質学、地震学、津波工学などの様々な切り口で、明和大津波の遡上高や波源、当時の被害状況、復興の様子を最新の科学的知見をもとに整理し、体系化している。各章どれも興味深く、明和大津波のこれまでの研究成果を紹介しつつ、最新の成果が盛り込まれている。中でも、第三章の「八重山諸島における津波遡上高と挙動」はボリュームがあり、研究史の紹介とともに、古文書の読み解きや精密測量に基づく著者らの検証プロセスに読み応えを感じる。津波の遡上高は各自治体が公表している津波ハザードマップを作成するには不可欠な情報である。そのため、過去の津波の遡上高を調べる事は非常に重要である。明和大津波でとくに被害の激しかった石垣島南東部の宮良地区の遡上高は、当時の政府がまとめた報告書では八五・四メートルとなっているが、著者らの検証では最大でも三三・二メートルになることが明らかとなったようだ。
 
明和大津波については多くのことが明らかとなってきたが、それでもまだ研究は途上であり、課題が残っていることもわかる。例えば、沖縄では一九七二年の本土復帰前後から大規模な土地改良が急速に進んだ。そのため、十分な学術的考古学調査が実施されず、津波堆積物を見逃していた可能性が高いことが指摘されている。伝承のように津波を伝える人の記憶だけではなく、人の痕跡を残した物の記憶と大地の記憶もしっかりと伝えていくことが必要である。
 
巨大津波は繰り返し発生し、いつ発生するかはわからない。いつ発生しても迅速に避難できるルートはどこなのか、安全な場所はどこにあるのか調べるために、本書を読み終えたら、八重山諸島と宮古諸島の津波ハザードマップをぜひ見てもらいたい。地域住民だけではなく、観光等でこれから訪れる方にも見て欲しい。できれば、ハザードマップを手にとって、現地を実際に歩くと良いだろう。その際は伝承や古文書、地質記録を詳細に調査してまとめられた最終章の「明和大津波痕跡巡り」が役立つだろう。(ほんごう・ちゅうき=和歌山県職員・地理学)
 
★ごとう・かずひさ=東京大学大学院理学系研究科教授・地質学。著書に『巨大津波 地層からの警告』など。