妙見信仰の民俗学的研究 日本的展開と現代社会
著 者:小村純江
出版社:青娥書房
ISBN13:978-4-7906-0371-9

日本文化の特質を見出す

十年かけて妙見信仰を追った力作

平瀬直樹 / 金沢大学教授・日本中世史
週刊読書人2020年6月12日号(3343号)


世界には様々な「星」の信仰があるが、日本では古代以来、天の中心にある北極星を「妙見」と呼び、仏教では菩薩、陰陽道では神のかたちに神格化して崇めてきた。古代では密教修法の本尊とされ、中世では道教の真武神と習合して武家の守護神になり、近世では日蓮宗によって庶民に広められた。このように時代によって変化する信仰には一定のスタイルが見出しがたいが、総称して「妙見信仰」と呼ばれる。
 
妙見信仰は、従来歴史的な変化や個別の祭祀に関して多く研究されてきた。今回、著者・小村純江氏は、これまでなかった新たな視点を提示し、妙見の代表的な特徴が現代の生活とどのように関係しているのかを明らかにしようと試みた。本書は全体像がとらえがたい妙見信仰を十年かけて追った力作である。
 
本書の内容構成は以下のとおりである。第一章では七十八点もの歴史的研究の論文や研究書から要点を抜き出して「研究略史」を掲げ、また日本各地の代表的な事例を紹介している。第二章では「研究略史」をもとに、現代まで続く妙見の代表的な特徴として、〈地域に伝わる氏神〉、〈武神の名残〉、〈容姿・芸能・学問の仏神〉、〈生産神〉の四つを想定した。第三章では、関東地方で行ったフィールドワークから、第二章で想定した妙見の特徴が現代の事例にあてはまるかどうかを検証した。簡単に紹介すると、東京都稲城市百村(もむら)の妙見は、特定の氏族のためではなく地域の住人を守護する「氏神」である。千葉市の千葉神社と寒川神社では、中世の千葉氏が崇敬した「武神」の名残が地域融和の醸成に役立っている。東京都墨田区の柳嶋妙見は、江戸時代に流行した「容姿・芸能・学問の仏神」としての心意気を伝えている。「秩父夜祭」に代表される埼玉県秩父地方の妙見は、稲作や養蚕などの産業と関わる「生産神」である。最後に第四章では、妙見は〈古態の持続性の維持〉、〈地域融和の醸成〉、〈文化・芸能・学問の守護〉、〈地域振興の育成〉という役割を果たすことによって現代の生活と関わっているのではないかとまとめている。
 
本書の特筆すべき点は、民俗学的研究でありながら、フィールドワークだけでなく文献資料も活用していることである。こうすることで妙見の現代的意義を論じる際に、現状の所見だけで結論を出すことを避け、歴史的背景を踏まえた奥行のある考察が可能になった。その結果、本書は妙見信仰史と現代の妙見祭祀の両方の分野で優れた概説書になっていると言えよう。
 
小村氏は、本書の最後で佐野賢治氏の学説に従い、妙見信仰は日本の「民族宗教」であると述べている。ここで言う「民族宗教」は、祖霊信仰や神祇信仰のような「固有信仰」と仏教や道教のような「成立宗教」が止揚統合されたもので、修験道をその典型とする(佐野「比較民俗研究の一視角―固有信仰論から民族宗教論へ―」『日中文化研究』一二、勉誠出版、一九九八年)。小村氏は、修験道と妙見信仰との関わりについては今後の課題としているが、本書を読むことによって、「固有信仰」と「成立宗教」が混じり合った、一見とらえどころのない信仰の中にこそ、日本人の文化の特質が見出せるということが理解できるであろう。(ひらせ・なおき=金沢大学教授・日本中世史)
 
★こむら・すみえ=神奈川大学日本常民文化研究所特別研究員。神奈川大学大学院歴史民俗資料学研究科博士後期課程修了。博士(歴史民俗資科学)。一九五〇年生。