コロンブスの図書館
著 者:エドワード・ウィルソン=リー
出版社:柏書房
ISBN13:978-4-7601-5090-8

偉大な冒険家の息子と「世界最高の図書館」

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

澁澤雄一朗 / TRC 東日本支社
週刊読書人2020年7月3日号(3346号)


本書の主人公であるエルナンドは、誰もが知っている冒険家であるコロンブスの息子である。偉大な冒険家の息子と「世界最高の図書館」はいかにしてつながってゆくのだろうか。
 
ルネサンス、宗教改革、大航海時代の最前線という時代背景で幼少を過ごしたエルナンド、宮廷に仕えながら、そこで最先端の学問に触れてゆく。13歳のときにコロンブスの第四回航海に同行し、父とともに新世界をめぐる。そこではすでに、身の回りのものをリスト化したり、文章にまとめたりする才能が芽生えていた。
 
1506年5月20日、コロンブスは永遠の眠りについた。ここからエルナンドの世界秩序構築への野望がスタートする。
 
21歳になったエルナンドはローマに滞在することになり、そこで湯水のように金を使って本を買い漁ってゆく日々を送った。そんな中、次第に新しい「図書館」という着想を得ていく。
 
ヴァチカン図書館など当時の図書館は、印刷物などには目もくれず、最も権威ある原典以外をすべて排除することで完璧さを保つ図書館だった。
 
エルナンドが目指す「図書館」の考え方はまったく反対のものだった。あらゆるものを収集、地位も名声もない著者による本や小冊子、紙きれに印刷された物語詩など「ごみ同然」とも思われる代物をむしろ積極的に収集していった。エルナンドのコレクションに対するこの考え方は、生涯変わることなく貫き通されてゆく。
 
あらゆる情報を目録化するためには、あたらしい発明が必要となる。
 
エルナンドはまず、無限に供給される新しい本であふれる世界の適切な道案内として、著者名タイトル名リストに加え、本の内容を短い要約にまとめる「概要目録」を発明する。この発明は、すべての本を手に取ることなく、目的の本を効率よく見つけることを可能とした。
 
次の問題、著者名タイトル名リスト、概要目録を使う検索は、どの本を探しているかがわかっていることを前提としていることにエルナンドは気づく。そこで発明したのが「題材別目録」、これが知りたいテーマから本を検索することを可能にする。それぞれの本が扱う主題を抜き出し、アルファベット順に並べたリスト。「題材別目録」は本と本のあいだの壁を崩し、図書館全体に似た内容の本どうしをつなぐネットワークを構築して、利用者に多くの蔵書から特定のテーマに関わる情報を大量に集めることを可能にさせる。
 
図書館のおもな目的は蔵書の手引きとなる三つの目録「概要目録」「題材別目録」そして最後のプロジェクトとなる「あるもの」の編纂だとエルナンドは公言している。
 
そのあるものとはなにか?本書の後半、「最後の指示」としてそれが明らかにされてゆく。
 
本書で繰り返されているエルナンドのコレクションに対する考え方、立派な本より安っぽい印刷物を優先して集めようとすること。それは、印刷術の発明が情報の世界をひっくり返し、ごくわずかしか存在しない権威ある貴重な写本が支配していた世界と、無限に供給される新しい本であふれる世界が入れ替わった、エルナンドはそのことにいち早く気付いたからであった。
 
数少ない特定の知識源ではなく、世界が与えてくれるあらゆる知識の蒸留物から世界を征服する力が生まれる、という発想がエルナンドを突き動かしてゆく。
 
本書は、世界秩序構築への野望、世界最高の図書館、あらゆる情報の目録化を試みた書物狂の生涯をかけた物語である。