スゴ母列伝 いい母は天国に行けるワルい母はどこへでも行ける
著 者:堀越英美
出版社:大和書房
ISBN13:978-4-479-39331-3

聖母幻想を打ち砕くハイパー母さんたち

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

真野春奈 / TRC-ADEAC
週刊読書人2020年7月3日号(3346号)


ベビーカーを押して電車に乗り込めば舌打ちされ、働きに出れば世界最下位レベルまで睡眠時間が削られ、離婚すれば貧困まっしぐら。そしてコロナ禍のいま、家事・育児の負担増やDV被害に苦しむ人もいるという。子を産み落とした瞬間、目の前に『北斗の拳』(あるいは『マッドマックス怒りのデス・ロード』)ばりの荒れ地が広がる――それが現代日本である。
 
では、時代をさかのぼるとどうか。もっとしんどかったはずのはるか昔、生を謳歌しつつ独自の育児を貫いた「スゴ母」がいた。彼女たちをテンポよく紹介したのが本書だ。
 
スゴ母は、よい子は決して真似してはいけない育児をしたりする。例えば、息子の太郎を柱に縛りつけて仕事に励んでいた岡本かの子。今なら炎上必至のエピソードだが、太郎はむしろ感謝し、母を一個人として敬い続けた。独立した大人に対するように何でも相談してくるかの子を通して、世間から監視される母親業の悲哀や、人生のなんたるかを学び、自己肯定感を高めていったのである。
 
海外のスゴ母も桁外れだ。リリアン・ギルブレスは、「1ダースなら安くなる」がモットーの夫から「なんなら僕たちの子どもも…」と提案され、12人の子を産み、育ててのけた超人。しかもその間に取得した博士号で夫のビジネスを支えた。夫は末っ子が幼い頃に急死してしまうが、リリアン自ら編み出した生産管理工学を活かした仕事が大企業の目にとまり、新たな人生を開いていく。いわゆる働き方改革、時短発想を得意としたリリアンは、今や世界中でおなじみのフットペダルつきゴミ箱、壁の電気スイッチ、冷蔵庫の扉内側の棚なども開発した。これら革命的なグッズは、働く女性の世界を塗り替えたに違いない。女だからって料理が好きなわけじゃないし、お母さんだからって家事が得意なわけじゃないからだ。
 
こうしたスゴ母たちのめくるめくスゴさに絶句し、爆笑し、ほろりとしながらぐいぐい読まされる。読み終えて本を閉じたときには「ママ、もうお腹いっぱいだよ…」感、解放とエンパワメントに満ちた気分を味わえるだろう。
 
子どもの意思を尊重するのは当たり前なのに、なぜか母親は真逆の仕打ちを受ける。思えば私も、CMに出てくるような「素敵なお母さん」ではない母を否定し、愚かにも裁くようなことを言ってしまったことがある。あの頃の自分をハリセンではたいてやりたい。すべての母親は聖母でも賢母でもない。ただその人であり、もしかしたらあなたそのものなのだから。