「食べる」が変わる「食べる」を変える
著 者:ビー・ウィルソン
出版社:原書房
ISBN13:978-4-562-05723-8

健やかに「食」を楽しむ

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

細井美沙 / TRC データ部
週刊読書人2020年7月3日号(3346号)


私たちは今、「食物革命」ただ中の世界に生きている。経済発展、グローバル化のもと、世界の食事情もここ数十年で劇的に変化してきた。栄養学者バリー・ポプキン教授が提唱する「栄養転換」の概念を用い、著者は人類の食の歴史を4つのステージに分けて論じている。人類の黎明期である狩猟採集の時代をステージⅠとし、続く農耕の時代がステージⅡ。ステージⅢでは、人類は産業革命を背景として飢餓を克服できる段階へ到達した。そしてステージⅣの現代、人類は新たな危機に直面している。食全般の質の低下、食事由来の肥満・疾病の増加、食生活の均一化、昔ながらの食習慣の喪失といった事象が世界各地で起きているのである。具体例豊富に語られていくこれらの事象…驚くべきは、日本で暮らす私の身の回りでもまるで同じことが起きているということ。食の危機は世界のどこか遠くの出来事ではない。自分事として、一人一人が日常的に向き合わざるを得ない問題なのだと痛感させられた。
 
とりわけ、食べ物の入手方法も現代社会では大きく変わってきているとする論で、その終着点として挙げている食事の宅配サービスを、「(人々を)社会的義務から切り離そうとする過程のひとつ」と評しているが、新型コロナ感染拡大防止のため世界中で「ソーシャルディスタンス」が叫ばれている今、別の意味でドキリとさせられる一説だった。日本でも外出自粛要請を受けUber Eatsなどの食事宅配サービスが急速に広まってきた。社会全体が大きな変化を余儀なくされている。私たちの食生活もまた然り。全く人を介さず、ロボットが食事を届けに来る未来もそう遠くないかもしれない。
 
食の問題は、政治・経済・教育・働き方なども絡む複合的な問題であり、解決を図ろうにも一個人にできることには限りがある。それでも、著者は様々な危機を克服した次の段階=ステージⅤへの希望を込め、私たちにたくさんのヒントも示してくれている。「いろいろな種類を食べる」「凝った料理よりもあり合わせのもので作れる料理をおぼえる」「五感を使う」etc.どれもすぐにでも実行できそうなことばかりで、危機に怯え悲観するだけでなく前向きな気持ちにもなれるので、ぜひ実際に本書を手に取って確かめてみてほしい。
 
私事だが、数年前に腸の病気が発覚し、日常的に食事制限を要する身となって以来、食や健康に関する情報収集に余念がなくなり、「食べる」を考えることが生活の大部分を占めるようになった。はじめはあくまで体調を整えるための義務的なものだったが、いつしかそれは自分の中で趣味と呼べるポジティブなものに変わっていった。そうした趣味の延長線上で本書と出会い、改めて自分の食生活を客観視できる良い機会に恵まれた。健やかに、そして何より楽しみながら日々の「食」に向き合っていきたい。この気持ちこそが、私なりのステージⅤへの第一歩である。