ブルース・リー伝
著 者:マシュー・ポリー
出版社:亜紀書房
ISBN13:亜紀書房

生誕80年、改めてブルース・リーを知る

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

河合卓 / TRC 仕入部
週刊読書人2020年7月3日号(3346号)


ブルース・リーについて書かれた著作では恐らく最大のボリュームではないか。上下二段組、600ページ近い大著である。
 
既に伝記や関連する出版物がいくつも存在する人物について書かれた著作である以上、既存のものとは何らかの区別を出す、あるいは新味を出すには、著者の思想や意見を多く取り入れ、伝記ではなく評伝の形をとることがあるが、著者はオーソドックスな伝記の書き手として、関係資料、関係者の証言などを元にあくまでも事実を積み上げ、取材を行って本作を構成している。リーが世を去って半世紀近くなり、彼を直接知る関係者も少なくなりつつある中、よくぞこれだけの著作を完成させたものだと思う。
 
リーの存在を伝説にした主演作は晩年のものであり、それ以前の時間、十代の終わりに渡米して再び香港に戻るまでの生活は順風満帆とは言えなかった。暮らしは常に経済的な厳しさが伴っていたことが本文で何度も触れられている。香港時代は子役として映画に出演する経験もありながら渡米後は演技の世界から離れていたにもかかわらず、再び役者を志すようになったのは経済的な理由もあったからである。だが、その後も大役や主役を獲得することはできず、ハリウッドのスターたちに武道を教え始め高額のレッスン料を受けられるようになっても、スターのコネはあまり役に立たなかった。そこには、スクリーン上で見られる無敵の男ではなく、理想と現実の狭間で不満を抱きつつ日々を生きる一人の中国人青年の姿を見ることができる。だが、この青年はずば抜けたバイタリティーと負けることを潔しとしない性格を兼ね備えていた。このことがハリウッドで少しずつ名を知られ、香港の映画会社が注目を寄せるきっかけを呼び寄せたのである。
 
リーが主演作の契約を結んでから死去するまではほぼ2年間、完成させた作品は4作である。たったこれだけの時間と業績で、その後の映画とポップカルチャー全体に今日見られるような巨大な楔を打ち込んだ人を、私は他に思いつかない。だが、その楔はそれ以前の30年の時間を経て生み出されたものだ。その時間を知れば、ブルース・リーという稀有のアーティストについて更に深く良く知ることが出来るだろう。19世紀の彼の祖先から本人の死(著者は彼の死因について可能性であるという前置きではあるが、かなり大胆というか、あっさりと結論づけている)までを、綿密に追った本書はその一助となるはずである。