図説 デザートの歴史
著 者:ジェリ・クィンジオ
出版社:原書房
ISBN13:978-4-562-05722-1

砂糖は薬?

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

余田葵 / TRC ライブラリー・アカデミー
週刊読書人2020年7月3日号(3346号)


あなたのお気に入りのデザートはなんですか?
 
本書の著者ジェリ・クィンジオ氏が友人にこの質問をしたところ、楽しい話が聞けるだろうという予想とは裏腹に、皆真剣な顔をして考え込んでしまったらしい。私は迷わず、焼きプリン一択だ!と意気込んだものの、幼いころ誕生日に食べた近所の洋菓子屋さんのケーキ、夏の暑い日に蚊と種と格闘しながら食べたスイカなどを思い出し、結局悩んでしまった。味よりもむしろ、そのデザートにまつわる思い出のことを考えて悩んでしまうのだから、不思議だ。はたから見れば、甘いデザートのことを考えている表情ではなかっただろう。
 
人々が真剣に考え込んでしまうデザート。その歴史はさぞ長いと思いきや、意外にも短い。本書は、短い期間に著しく発展したデザートの歴史を、材料や技術、見た目の変化などの視点でひもといていく。
 
現在、砂糖を摂取しすぎることは健康によくないと考えられている。しかし、中世ヨーロッパでは砂糖は高価な薬として重宝された。15世紀の貴族たちは、ナッツなどを砂糖でコーティングした菓子「コンフィ」を立ったまま食べていたそうだ。食後の消化を促進する薬だったらしい。やがて、ヨーロッパ諸国植民地での過酷な奴隷労働によって大量生産が行われるようになり、砂糖はあらゆる人々が口にできる安価な材料へ変化した。
 
デザートの見た目の変化と流行の関係も興味深い。17世紀イギリスのレシピ集には、鳥のパイが紹介されている。切り分けたとたん、パイの中から鳥が飛び立つのだ。さらに、そびえたつ城やライオンなどを彫刻した巨大な砂糖菓子も流行したらしい。モナ・リザで有名なレオナルド・ダ・ヴィンチも砂糖菓子を作り、せっかくの芸術作品を跡形もなく食べられたことに不満を抱いたとか。
 
また、16世紀の生麵棒や19世紀のレシピ集などのカラー写真から、当時の調理技術を垣間見ることができる。童謡とデザートの関係の考察や、世界各国のご当地デザートの紹介もある。
デザートは私たちの暮らしに寄り添ってきた。現在ではあふれるほどの種類があり、専門店だけでなくコンビニで手軽に買うことも、自分で作ることもできる。それらデザートの名前や作り方を知っていても、歴史まで知っている人は少ないのではないか。私は、砂糖を口にできるのは奴隷労働があったからだという事実を知り、衝撃を受けた。癒しの時間をくれるデザートは、歴史も優しいものだろうと勝手に考えてしまっていた。過酷な歴史がデザートを発展させたということを、私たちは軽んじてはならない。もちろん、本書には楽しい歴史も満載だ。人々に至福のときをもたらすデザート。その歴史を知れば、今日は中世貴族風デザートを食べてみようかなと新しい楽しみ方ができるかもしれない。明日のデザートが待ち遠しくなるだろう。