カラスと京都
著 者:松原始
出版社:旅するミシン店
ISBN13:978-4-908194-03-0

カラスと京都

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

高田高史 / 神奈川県立川崎図書館
週刊読書人2019年5月17日号(3289号)


 多くの研究者が,どのように学問の道を選んできたのかを,我々は知らない。ノーベル賞受賞者の若き日のエピソードが報道されることはあるが,それは等身大のものとは受け取りにくい。本書は,カラスの研究者として知られる松原始氏が京都大学(おもに学部)で過ごした日々を記したものである。松原氏の著書『カラスの教科書』(雷鳥社 2013)や『カラスの補習授業』(同 2015)を読んだ方はわかると思うが,遊び心を交えた文章を書ける方なので,あまり難しく考えずに手にとってかまわない。
 おもな内容は,授業とフィールドワーク,部活(野生生物研究会),カラスの観察,菓子パン程度の食生活と酒などである。色恋はまったく触れられていないが,カラスとの出会いと,その後の片想い(両想い?)は記されている。学部生の時期なので研究の成果は本書の範疇ではない。「途中下車の旅 鹿児島→山口」という紀行文も私は好きだが,あくまでフィールドワークの復路である。
 ほかにも,京都大学のキャンパス,出町柳,下鴨神社周辺に限定した観光客には役に立たない京都情報も得られる。下鴨神社の境内で,カラスの写真を楽しそうに撮っている観光客がいたら「松原先生の本を読まれたのですか」と声をかけても笑ってくれる可能性は七割くらいありそうだ。ただし,人見知りの方も多い気がするので,そそくさと逃げられるかもしれない。
 本書のあとがきで松原氏は「そして,何よりも大学でよく見かけた学者という生き物の姿が,大学で得た一番大きな経験だと思うのだ。」と記しているが,その学者がどうやって生まれていくのかというひとつのケースを,本書を通して知ることができる。大学の4年間を本にまとめられたのは,密度の濃い時間を過ごせたからであろう。その4年間をうらやましく,すこしまぶしく感じながら読み終えた。