認知症になった私が伝えたいこと
著 者:佐藤雅彦
出版社:大月出版
ISBN13:9784272360826

認知症になった私が伝えたいこと

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

舟田 彰 / 川崎市立宮前図書館
週刊読書人2019年5月24日号(3290号)


 認知症に対する認識を改めた一冊である。
 著者が認知症の当事者であるが故,文章の一文字ごとに重みを感じる。今までいつもと変わりない日常生活の中,ある時に小さな異変に気付き検査。51歳で認知症と診断され,仕事は退職することとなる。自分で認知症について調べたが,知れば知るほど生きることに失望を感じるようになる。
 さらに,若年性認知症に対する偏った情報,誤った見方は一般市民と当事者本人が信じてしまうという二重の偏見が生まれてしまうことを知る。人間の価値を「できること」・「できないこと」により語るべきではなく,一人の人間として生きることの判断を自ら意思決定するのだと強く文中に表されている。
 認知症でも自分らしく生活する術のさまざまな工夫を丁寧に説明している。個性を大切にし,人からの支援や機械を駆使しながら,家から外へ出てできるボランティアなどを行う。そこで世の中に役立つことが自分の自信と生きがいを感じると説いている。また,認知症の偏見をなくすため,著者が講演を行い社会へその声を届け,後に行政へ認知症施策について提案する団体を設立し活動を始めるのである。しかし世間からは「認知症らしくない」や「売名行為はやめなさい」とまで言われた。一生懸命生きようとするが一部では冷ややかな視線を浴びる場面もあった。
 最後の章では著者から私たちへのメッセージが綴られている。その中で「認知症になっても幸せに暮らせる社会を一緒に作っていこうではありませんか。」という一文に心が揺さぶられた。さらに「何もできなくても,尊い存在なのです。」というメッセージには当事者の想いがすべて込められていると感じた。
 認知症の理解を深める際に,当事者の声に勝るものはないことがわかった。