日本の森列伝  自然と人が織りなす物語
著 者:米倉久邦
出版社:山と溪谷社
ISBN13:978-4635510264

日本の森列伝

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

大塚敏高 / 元神奈川県立図書館
週刊読書人2019年5月31日号(3291号)


 都会に暮らしているとつい忘れがちになるのだが,「日本の国土は約7割が森林に覆われている」(まえがき)と改めて聞くと「そうだったな」という思いがわく。日本の森林は,北海道の亜寒帯から始まり,冷温帯から暖温帯,そして沖縄は亜熱帯と南北約3,000kmにも連なっている。これによる気候の違いは生育する森林の違いを生み出し,多様な個性あふれる森林を育んでいる。
 そうした森林の中から,「列伝」のタイトル通り北海道北限のブナの森,山形県庄内海岸防砂林,滋賀県比叡山延暦寺の森,沖縄西表島マングローブの森等々と12か所の森林を訪ね,紹介するルポルタージュとなっている。著者は,現在森林インストラクター。そしてフリージャーナリストでもある。森林を訪ねるときの重要な視点として,人と森林との関わりをあげたところにも,この本の大きな特徴がある。
 ジャーナリストの眼を持って森林を歩き,森林に関わった人の話を丁寧に聞き,これまでの歴史的な経緯をも丹念に調べて,読者に考える材料を提供している。例えば,南限とされているトウヒ(北海道のエゾマツとほぼ同じ種)の森が枯れ,白骨林状態になってしまっていることをどうすれば良いかという問題がある。紀伊半島大台ケ原の森林のことだ。ここでは,自然保護団体と環境省との間に,自然観について意見の違いが出ている。著者はこう書いている。「人がどこまで,自然に関与し管理するべきなのか。根本の課題に対する“解”は,これから大台ケ原がたどる歴史がだしてくれるかもしれない。」(p.330)あくまで,読者に考える材料を提供し,一緒に考えようという姿勢を崩さずにいる点に敬意を表したい。
 「ヤマケイ新書」として気軽に手にすることができるが,読み進むうちに重い内容を含んでいることに気づく。日本の森林の今を知ることのできる好著である。