ブライアン・ウィルソン&ザ・ビーチボーイズ 消えた『スマイル
著 者:ポール・ウィリアムズ
出版社:シンコーミュージック
ISBN13:978-4-401-64298-4

ブライアン・ウィルソン&ザ・ビーチ・ボーイズ

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

大林正智 / 田原市中央図書館
週刊読書人2019年5月31日号(3291号)


 ザ・ビーチ・ボーイズの芸術的成功の頂点とされるアルバムは『ペット・サウンズ』である。それまでの彼らの作品に比べ内省的で,革新的だったそのアルバムは(少なくとも発売当時としては)決して商業的に大成功したとは言えないが,ロックの歴史に彼らの名前を刻むことになった。
 その名盤『ペット・サウンズ』の次に来るべきアルバムが『スマイル』だった。本書はザ・ビーチ・ボーイズの作品としては未完となった『スマイル』がいかにして失われ,そして違う形で再び光を浴びたかを,約40年にわたって追い続けたロック評論家の物語である。
 幻の傑作の断片に出会った評論家は,その断片の周りを回り続け,併走し続ける。その振る舞いを読み進むうちに読者は,ビーチ・ボーイズの中心人物であるブライアン・ウィルソンという人間とともに,著者のポール・ウィリアムズに関心を向け始める。いったいこの男はなぜこんなに『スマイル』にこだわり続けるのか,と。そしてその疑問は次の疑問へと連なる。それほどまでにこの男を執着させる『スマイル』とはどんな著作物だったのか,と。
 著作物が生み出され,受け手に届くまでの流れの中に評論家の仕事はある。図書館員の仕事(の一部)も同様である。生成から評価まで,時として想像を絶する時間を必要とするその流れの中で,どうしたら本当に著作物を「届ける」ことができるのか。
 「ザ・ビーチ・ボーイズについての本はありますか」と問われたら,検索して手渡すことは容易である。ただその本を本当に必要とする人に「届ける」ためには,どれだけの知恵と工夫,そして情熱(もしかしたら執念)が必要になるのだろう,と考えさせられてしまう一冊である。