人口減少社会のデザイン
著 者:広井良典
出版社:東洋経済新報社
ISBN13:978-4-492-39647-6

2050年の輪郭

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

林正樹 / TRC 北陸・甲信越支社
週刊読書人2020年7月17日号(3348号)


人口減少について誰しもが大なり小なり危機感を抱いていることと思う。故郷の商店街がシャッターだらけだったり、子どもの学校のクラス数がやけに少なかったり、自分の学生時代と比べてバイトの時給がけっこう高かったり、こういった場面に出会うたびに漠然とした社会の尻すぼみ感やジリ貧感に苛まれる。そのどこかぼうっとした焦燥感に輪郭を与えてくれるのが本書である。

「〜のデザイン」という書名で、装丁もちょっとポップな感じなので、比較的軽めの内容かと思われるかもしれないが、実際はきわめて真正面/正攻法/王道。ただし、専門的な用語は抑えられ、文章も平易な表現ばかりなので、読みにくさは全くない。むしろ、映画の話、岡山の実家の話、芭蕉の句の話など、著者の小さな体験談が端々にあらわれて理解を容易にしている。

論ぜられる内容としては、人口減少社会のあらましからはじまり、コミュニティ・まちづくり、ポスト成長社会、社会保障、医療、果ては死生観といったさまざまな視座が提示されるなかで、今後の持続可能社会をさぐるための考察がなされている。その元となるのがAIによる2050年への持続可能シナリオ(または破局シナリオ)のシミュレーションであるが、本書ではその使用法や結果については概要が説明されるにとどまり、あくまでそこから導き出される著者の論が中軸である。シミュレーションによると、著者自身もおそらく当たり前すぎて「ある意味で予想外」と述べているが、「都市集中」か「地方分散」かという分岐が日本の持続可能性を図っていくうえで本質的な選択肢となる結果だったそうだ。この対立軸ないし分岐を軸に、複数分野での考察において、「拡大・成長志向から持続可能性へのシフト」、「都市・まち・ムラとは」、「ポスト情報社会/定常化社会のあり方」といったテーマがリフレインされていくというのが本書の構造である。

すこし物足りないと感じてしまったのは、本書は現状認識や論点整理が主で、未来に向けてはあくまで「提言」にとどまるところ。そして、それがどちらかというと「政策的な目線」での提言であること。書名の「デザイン」という言葉から考えてみれば、事象結果やケーススタディから要素抽出してくれて、それを抽象化するところまではしてくれているし、ラフデザインも提示されている。が、それを生活に落とし込むためにどう作りこむかは、読者に委ねられている。それもそのはず、著者が言うようにローカライゼーションの新たな形が進行していくなかで、画一的なデザインなど最大公約数として陳腐化するだけ。あとがきにあるように「それは〝大変〞な難題ではあるが、きわめてチャレンジングで、本来〝おもしろい〞はずのもの」であるのだから、本書の提言や示唆を吟味しつつ、読者として市民目線/コミュニティ目線でも人口減少社会のデザインを楽しんでいきたい。