漢字の植物苑 花の名前をたずねてみれば
著 者:円満字二郎
出版社:岩波書店
ISBN13:978-4-00-061391-0

漢字に宿る人々の心に思いを馳せる

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

大槻美幸 / TRC データ部
週刊読書人2020年7月17日号(3348号)


小学生の時分、漢字ドリルの書き取りが大好きだった。自主勉強が課されるたびに、漢字練習帳にひたすら漢字を書き連ねたのは、未知なる漢字を覚えるのが楽しかったからなのだと思う。今でも難読漢字クイズを見れば心躍り、漢字検定に挑戦しようと参考書をとることもしばしばある(ただし当時ほどの熱意はなく、三日坊主で終わってしまうのだが)。

難読漢字といえばよく植物名が挙げられるが、どうしてこのような表記をするのだろうと不思議に思うものが多い。例えば「酸漿」「独活」などは、一字ごとの音訓からは読み方の見当もつかない。本書は、このような植物漢字の不思議に、語源や成り立ちから迫っていく。

漢字は、中国語を書き表すために生まれた文字だ。それが日本に伝わり、日本語を書き表すために現代でも使われている。そしてその使われ方は、人々の思想や、その土地に根付く文化、慣習などに影響される。特に植物のような、気候風土に密接にかかわるものの漢字には、この影響が色濃く表れる。

古くから日本人は、中国の文学や文献の記述から、その漢字がどの植物のことを指しているのかを読み解き、日本語に当てはめていった。前述の「酸漿」「独活」はそれぞれ「ほおずき」「うど」、中国語の表記に日本語での呼び名を当てたものだ。ただ、この同定の過程で、似たような植物を誤解して別の植物に当てはめてしまうことはよくあったらしい。そのため、日本語の植物漢字が、必ずしも中国で同じ植物を指すとは限らない。そもそも、広大な中国大陸で紀元前から使われるひとつの漢字が、地域や時代によって違う植物を表すことはままあり、正確に理解できたとしてもどの植物に使用するのが適当か、当時の日本人は頭を抱えたことだろう。

中には文化の違いを克服するために、日本独自の用法が生み出されるという漢字も出てきた。ススキは中国文化の中ではあまり重要な植物ではないようで、そのものを表す漢字がない。それでは困る日本人は、中国でススキを含む植物を指す「芒」をススキとしたという。一方、中国語での意味を理解しながらも、日本人の風流を表すために、あえて意義をずらすこともあった。「萩」は中国語ではヨモギの一種を指すが、ハギに秋を感じる日本人の想いは強く、あえて「萩」という字を当てた。元来の意味から離れることもいとわず、日本文化として漢字を扱ったのだ。

このように、植物漢字の由来をたどった先には、漢字を日本文化に取り入れるために試行錯誤する日本人の姿があった。漢字を紐解くことで、古代からの人々の想いを蘇らせることができる。それはまるでタイムカプセルのようだ。この魅力に気づいてしまった今、難読漢字が読めるだけでは満足できそうにない。ますます漢字の虜になりそうだ。