画家とモデル 宿命の出会い
著 者:中野京子
出版社:新潮社
ISBN13:978-4-10-353231-6

描く人、描かれる人

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

横松令奈 / TRC 学術情報ソリューション
週刊読書人2020年7月17日号(3348号)


熱心な美術ファンと言うほどではないが子供の頃より絵を見るのは好きで、特に人物画が好きだった。例えば美女が描かれた絵を単に「きれいな女の人の絵」と見るのも悪くはないが、それが「誰か」を知れば絵の楽しみは一段と深くなる。一国の王妃か、画家の妻か、絵の中のあなたはどこのどなたなのだろう…。

著者はこれまでにも時代背景、文化、画家の生涯など、さまざまな角度から絵の読み解き方を解説してきた。そんな著者の今回の切り口は「画家とモデル」、18組の画家とそのモデルとなった人物のエピソードが一枚の絵を通して紐解かれる。

絵のモデルというと美しい女性と短絡的に考えてしまいがちだが、画家に創作意欲を与えるミューズは必ずしもそうとは限らないようだ。老若男女、モデルの立場、画家との関係、両者がたどった人生も、本書で取り上げられる18組にそれぞれ違ったドラマがある。画家とモデルの一筋縄では語れない人間関係が軽快な文章でドラマチックに語られる。

特に表紙にも採用されているワイエス、本書冒頭に取り上げられているサージェント、この二人の画家が密やかに生み出した作品とそのモデルのエピソードは本書の見どころと言えるのだろう。

私が印象的だったのは、女流画家フォンターナと「半人半獣」と呼ばれた多毛症の少女《アントニエッタ・ゴンザレスの肖像》のエピソード。実際に二人がどのような会話をしたかの記録は残されていないらしいが、画家とモデルの少女のひとときの交流が目に浮かぶようだ。こうして本書で紹介されなければこの肖像画を見ても少女の愛らしい瞳に気づかず通り過ぎていたかもしれない。

他にもベラスケス、シャガール、モディリアーニ、レンブラントなど、知っている画家、見たことのある絵でも、画家とモデルの関係性を知って見ると今までとは違った見え方や新たな魅力が感じられるだろう。読了後は本書で取り上げられた画家の他の作品についても知りたくなる。

この書評を書いている6月上旬、一時的に閉館していた都内の美術館も少しずつ再開し始めたようだ。また休日に美術館に足を運ぶことができるようになったならば、「描いた画家」と「描かれたモデル」についても思いを馳せて絵を楽しみたい。美術館の再開を心待ちに読んだ一冊。