赤ちゃんをわが子として育てる方を求む
著 者:石井光太
出版社:小学館
ISBN13:978-4-09-386574-6

日本の赤ちゃんを救った
「特別養子縁組制度」とは

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

片山みどり / TRC 仕入
週刊読書人2020年7月17日号(3348号)


本紙で紹介する作品をどうするか悩んでいたときに書店で出会った一冊。先ず、「赤ちゃんをわが子として育てる方を求む」をいうタイトルに惹かれた。手に取ってページをめくると遊郭、遊女の文字が目に入る。赤ちゃんと遊郭がどこでどう繫がるのかますます興味が沸き、この本を紹介することに決めた。有名人でも一般人でも何か新しいことをしようとすると必ず批判や反対が起こる。それは現代に限ったことではなく、むしろ、昔の方が酷かったのかもしれない。ましてや、それが新しい法律を作るともなれば尚更だ。だからこそ、当事者は人生をかける覚悟で挑む必要があったのだろう。本作は国を相手に「特別養子縁組制度」の成立に人生を捧げた産婦人科医・菊田昇の生涯をノンフィクション作家石井光太が描き上げたものだ。

大正15年、宮城県石巻市で生まれた昇は、頑固で商売人の母親ツウが営む遊郭「金亀荘」で育つ。実家が遊郭ということもあり幾度かいじめにもあったが、幼少期の昇は読み手がハラハラするぐらいに好奇心旺盛な少年だった。そんな昇には母親、兄姉同様に大切な女性がいる。金亀荘で遊女として働いていたアヤとカヤの姉妹だ。医者になる気などさらさらなかった昇が医者を目指するようになったのもカヤとの悲しい別れがきっかけだった。寝る間も惜しんで働いた大学病院の勤務医時代、仲間や家族との楽しい時間を覚えた秋田の市立病院の医長時代、そして、故郷の石巻に帰り開業医となった昇は産婦人科医として見た故郷の現状と日本の産婦人科医療の問題に疑問を抱き、行動する。その行動力にはたびたび驚かされるが、幼少時代の昇を思えば懐かしささえ感じる。そんな昇の姿に反対するもの共感し応援するもの様々だが、生まれくる命を守りたいという想いは皆同じなのだと思わされる。

昨今、日本では実の親による児童虐待のニュースが後を絶たない。命の尊さを訴えてきた昇がこの現状を知ったらどう思うのだろう。産婦人科医として数えきれない命を救ってきた昇が必死になって成立させたこの制度を今一度日本人に知ってもらいたい。