ゲット・バック・ネイキッド
著 者:藤本国彦
出版社:青土社
ISBN13:978-4-7917-7266-7

四人の真実と最終章の答え

スタジオ作業の一日ごとの記録と解説

田家秀樹 / 音楽評論家・放送作家・ノンフィクション作家
週刊読書人2020年7月17日号(3348号)


ビートルズがなぜこれだけ長く聞かれ続けて、語られ続けているのか。その理由に「情報公開」があるのだと思う。
 
もちろん、ロックやポップスだけでなくクラシックや民俗音楽までも取り入れれた公式発表曲数全二七八曲の音楽性の豊かさが前提になっているとは言え、それにまつわる膨大な「情報」あってこそだと言っていいのではないだろうか。
 
例えば、どの曲のどの部分を誰が書いたか。いつ、どういう形でレコーデイングされたのか。その過程でどんな風に変わって行ったのか。そうした「情報」が、詳細に渡って明らかになっている。
 
曲にまつわるだけではない。ジョン・ポール・ジョージ・リンゴの四人がどんな家庭に生まれ、どんな風に育ち、いつ音楽に目覚めてどうやってバンドが結成されたのか。いつ、どこで、誰が、どうやって、何を、何故、という「5W1H」が公開されている。それも公式なものだけでない「海賊盤」という非公式なものも含めてである。それらをたどってゆけばどんな些細な疑問の答えも手に入る。そうやって「ビートルズ」という「迷路」や「宝庫」から出られなくなる。
 
本書は、彼らのキャリアの最大の山場となった一九六九年の「ゲットバック セッション」と呼ばれるスタジオ作業の一日ごとの記録である。一月二日から十五日、二十日から三十一日までの二十二日間。二〇一九年に発売になった八十三枚組の海賊盤「THE GET BACK SESSIONS」の会話部分だけを抽出し解説を加えたものだ。
 
何しろ八十三枚組という量だ。その日、スタジオでどんな曲を演奏したのか、その時にどういう会話が交わされたのか。録音機材が回りっぱなしだったとしか思えない無防備であからさまなやりとりが続いている。
 
六六年にツアー活動をやめスタジオ作業に専念、六七年に歴史的名盤「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」を完成、その後から迷走期に入った四人の真実。「もう一度やり直そう」と試みられたこのセッションは試行錯誤の連続。最終日に彼らの会社であるアップルのビルの屋上で行われたライブにこぎつけはしたものの、録音された作品の大半は未発表。このセッションの反省が元になって制作された最後のオリジナルアルバム「アビーロード」の後に、二十二日間の模様を収めた映画「レット・イット・ビー」のサウンド・トラック・アルバムとして発売になった。それも全員の了解がないままに音が加えられていたというオチもある。
 
バンドは生身の人間の集まりだ。映画では伺えなかったその日の四人の機嫌や、虫のいどころまでが伝わってくる。
 
ジョンとポールの狭間で居場所を失ったジョージの一時的脱退やヨーコの存在にバンドに関心を失って行くジョンと存続のためのポールの気遣い。そして、ビートルズを利用しようとする業界人の思惑。いつ誰がどんな発言をしたのか。なぜ解散せざるを得なかったのか。四人の最終章の答えがここにある。
 
著者は元「CDジャーナル」の編集長。ビートルズ関連の著書多数の研究家。登場人物や前後の経緯も丁寧に解きほぐしてくれる。
 
バンド解散五十周年。こうした「情報公開」がある限り、彼らは生き続ける。(たけ・ひでき=音楽評論家・放送作家・ノンフィクション作家)
 
★ふじもと・くにひこ=ビートルズ研究家。音楽出版社に入社し、「CDジャーナル」編集部に所属。フリーとなった後、主にビートルズ関連書籍の編集・執筆・イベント・講座などを手掛ける。編著に『ビートルズ語辞典』『ビートルズはここで生まれた』など。映画『ザ・ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK: The Touring Years』の字幕監修も担当。