破綻からの奇蹟 いま夕張市民から学ぶこと
著 者:森田洋之
出版社:南日本ヘルスリサーチラボ
ISBN13:978-4-9908565-0-2

破綻からの奇蹟

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

岩本高幸 / 和泉市立和泉図書館
週刊読書人2019年6月7日号(3292号)


 先日関西の館長クラスが集まった雑談の席で,いまも公共図書館が未設置の市の話題になった。その一つである北海道夕張市は,2007年に約353億円の赤字を抱えて財政破綻した自治体である。このニュースは,自治体も倒産するのだという衝撃とともに,炭鉱と特産のメロンで全国的に名の知られた町がダメになってしまうのかという悲哀感と,自分の住む町も同じようなことになるかもしれないという不安感を日本中に抱かせたと思う。  夕張市の人口は1万人,全国の市の中で高齢化率が47%と日本一である。財政破綻の影響で,さまざまな行政サービス,公共サービスが停止した。  市内唯一の総合病院の閉鎖もその一つである。CTやMRIなどの検査機器も,救急病院もなくなり,住民は十分な医療を受ける手立てを失った。では,住民は安心して夕張で暮らすことができなくなってしまったのだろうか。  2009年当時,南国宮崎県の大きな急性期病院の研修医であった著者は,豪雪の夕張に家族とともに転居し,今までとは180度違う医療現場に携わった医師であるが,上記の問いに対し明確に「否」と答えている。大きな理由は,住民の終末期医療に対する意識が変わったことだそうだ。これを受け,今後の医療の役割についての著者の真摯な考えも示されている。  こう書くと,難解な内容かと読むのを躊躇されるかもしれないが,3人の登場人物が軽妙に対話をしながらわかりやすく医療現場のキーワードを伝えてくれる内容で,住民の日々の生活もいきいきと描かれている。  2060年には高齢化率が40%を超え,日本全体が夕張市と同じ状況を迎えるという。「大きな病院で診察してもらえば安心だ」という「なんとなくの当たり前」を見直し,自分が受ける医療を身近な問題としてとらえることができる一冊である。