断片的なものの社会学
著 者:岸政彦
出版社:朝日出版社 
ISBN13:978-4255008516

断片的なものの社会学

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

小野桂 / 神奈川県立川崎図書館
週刊読書人2019年6月28日号(3295号)


 いじめられた,というほどはっきりした体験でなくとも,何となく仲間外れのような感じ,誰ともなじめない気持ちが持続してしまう時期があったことはないだろうか。どうにかそこを生きのびた後で,あの頃の自分や,今それと同じような状況にいる人に送りたくなるような一言――なかなか言語化できなかったそういうようなことを言い当ててくれたようなところが,この本にはあると思う。
 たとえば,「ある人が良いと思っていることが,また別のある人びとにとっては暴力として働いてしまうのはなぜか」(p.111)。それは,それが「個人的に良いもの」ではなく,「一般的に良いもの」という語りになってしまったときに,そこ(一般)に含まれる人と含まれない人の区別を作りだしてしまうから。「子どもを持つのが幸せ」という言説は,さまざまな事情で子どもがいない人をつらい思いに追い込む。けれどもその言説に合致する人にとっては,逆に肯定感が増して生きやすくなったりもする。だからどうだということは,ここでは言われない。ただ,そういう仕組みがあることをわかったほうが,たぶん気が楽になる。
 また,「誰にでも,思わぬところに“外にむかって開いている窓”があるのだ。私の場合は本だった。(中略)彼女にとっては,夜の仕事が外へ開いた窓になった」(p.82-83)。いつもいる場所とは違う世界が“ある”ことを知らなければ,その世界で何かまずいことが起こったときに破たんまでつきすすんでしまいかねない。けれど,世界はそこしかないわけではないよ――と,そのことを知っているだけで,だいぶ違う道が開けることもある,ということが大切なのだと気づかせてくれる。
 いろいろな聞き取りをしてきた社会学者のエッセイである。各章の冒頭に掲げられている写真もいい。