世界のエリートが学んでいる教養としての哲学
著 者:小川仁志
出版社:PHP研究所
ISBN13:978-4569823829

世界のエリートが学んでいる 教養としての哲学

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

山下樹子 / 神奈川県立図書館
週刊読書人2019年7月19日号(3298号)


 「哲学」という世界を覗いてみようとしたとき,果たして途方にくれてしまった。著名な哲学者の書を読むほどに自分が哲学の世界のどこを歩いているのかわからなくなっていった。そしてたどり着いたのは,「そうだ,教科書を読もう!」。
 学生ではない大人に教科書の需要があるのは,効率的に公平に世界を理解できる本として認識されているからだろう。教科書そのものではないが,そうした役割を果たしてくれるのが本書である。「グローバルビジネスに必須と思われる哲学の教養を,ビジネスのためのツールとして位置付け,紹介していきます。」(p.9)と目的を説明しているが,世界で活躍する予定がなくても,哲学の道を歩く前に入り口で迷った人を救う教科書として活用することができる。
 哲学という分野を歴史,思考,古典,名言,関連知識,人物,用語,という複数の視点から見ることにより全体像を俯瞰してとらえられるように構成されており,これから読むべき哲学書を選択する際の参考にもなる。関連知識として,宗教,倫理,日本の思想についてもふれており,多文化を理解する上で必要な知識も得ることができる。
 第一章にあたる「ツール1歴史」の冒頭には「大づかみでわかる哲学史」という図が登場する。古代ギリシア,中世,近代,現代の哲学の流れが一目でわかるように整理されており,この図を頭に入れて読み進める感覚は,地図を持って道を歩くのに似ている。哲学の道のどこを歩いているのかを意識しながらの読書は知識や自分の考えの整理もしやすい。
 本書のタイトルには「教養」という言葉が含まれているが,教科書で得た知識を教養に育て自分のものとするのは,自ら選んだ本のその後の読書だろう。