洲崎球場のポール際 プロ野球の「聖地」に輝いた一瞬の光
著 者:森田創
出版社:講談社
ISBN13:978-4-06-219250-7

洲崎球場のポール際

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仲明彦 / 京都府立洛北高等学校
週刊読書人2019年8月2日号(3300号)


 2017年はプロ野球草創期に東京巨人軍で活躍した伝説の大投手・沢村栄治の生誕100年となる。2015年,初めて沢村投手の試合中の投球映像が発見され,NHK番組でも紹介された。1936年12月11日洲崎球場での東京巨人軍対大阪タイガース,第二回全日本野球選手権優勝決定試合のダイジェスト映像である。この映像を発掘したのが本書の著者森田創氏である。
 洲崎球場?と思われた方も多いだろう。プロ野球リーグが誕生した1936年,現在の東京都江東区新砂に建てられたプロ野球専用球場で,初の日本シリーズといわれる先の優勝決定戦など多くの名勝負が行われながら,1938年6月の公式戦を最後にいつしか消えていった伝説の球場である。
 本書は「球場の仕様,規模,収容人数,解体時期など,あらゆることが謎に包まれた球場」の「謎を解明したい」(p.6)という動機から,著者自身が「地球上にある資料はすべて読破した」と豪語する程に積み重ねた調査の集大成である。そこから描き出される,往時の選手たちのプレーや息づかいに,野球ファンなら必ず胸が躍るはずである。
 しかし本書は決して野球のマニア本ではない。風向き一つで左右されるポール際の打球。同様に洲崎球場のポール際にも「あらゆる運命をもてあそぶ,時代の風が吹いていた」(p.7)。戦争の足音である。洲崎球場で白球を追った選手たちも次々と出征,帰らぬ人となった選手も数多い。沢村栄治もその一人。もちろん生をまっとうした選手も時代に翻弄された。本書ではその一人ひとりの選手の足跡を丹念に追うことによって,たんに野球に収まらず,「時代の風」を伝える上質のスポーツノンフィクションとなっている。
 本書は2015年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞しているが,著者曰く「本は売れなかった」らしい。ぜひ図書館に一冊をと願う。