移民の宴 日本に移り住んだ外国人の不思議な食生活
著 者:高野秀行
出版社:講談社
ISBN13:978-4062180474

移民の宴

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

宮﨑聡 / 神奈川県立横須賀明光高等学校図書館
週刊読書人2019年8月9日号(3301号)


 日本のはずなのに,「『どこでもドア』のように,一瞬で外国に行ってしまう」(p.19)ように思える,国内のさまざまな外国人コミュニティ。文化,人生観,人々のつながりなど,異文化に触れる見聞記は面白い。
 200万人にも及ぶ,日本に移り住んできた外国人について,「私たち一般の日本人は,意外なほどそういう外国人の『ふつうの姿』を知らない」(p.19)と述べる著者は,飲食を媒介として,外国人個人と,その人が属するコミュニティの姿を,かた苦しくなく探る。アジア,アフリカを多く旅し,ユニークな視点でルポを残す著者だが,それでも取材ではさまざまな発見もある。
 本書では,タイ,イラン,フィリピン,フランス,中国,ブラジル,ロシア,スーダンの人々・コミュニティが登場する。「寒くて,気持ちいいです」(p.42)と発言するタイ人。大地震被災時でさえも「明るくしていなければかっこうわるい」(p.123)と思う(?)フィリピン女性。そんな人々のふるまい,日本への反応が,豊富につづられる。
 おりしも雑誌連載時に3.11(東日本大震災)に見舞われ,今度は外国人たちが,どんな被災生活を送ったのかの取材に変わる。取材相手をみつけ,支援を兼ねて食材も持ち各所を訪問していく中で,「炊出しをおこなう外国人に圧倒的に南アジアの人が多いのはカレーと関係があるのではないか」(p.93)という食文化上の想像も働かせる。
 長く高校勤めをしてきた私だが,図書館を通してでも,以前に比べ外国につながる生徒との接点が増えたと感じる。価値観や文化の違いに直面する機会もあった。個人との日常のやりとりだけではわからない,彼らの背景を多少なりとも知ることができればと思ったときに出会った1冊である。