地方創生大全
著 者:木下斉
出版社:東洋経済新報社
ISBN13:9784492212257

地方創生大全

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

砂生絵里奈 / 鶴ヶ島市教育委員会、日本図書館協会認定司書第1060号
週刊読書人2019年8月23日号(3303号)


 現在,ありとあらゆる地域で,地方創生の名を謳って補助金を使った事業が行われているが,そのうち本当の意味で成功したところはどれほどあるのだろうか?
 この本は,地方創生という名に踊らされ,安易に補助金に頼ろうとする地方自治体に向け,警鐘を鳴らしている。
 失敗事例として,財政破綻をきたし,二人もの首長が引責辞任せざるを得なかった青森県青森市の「アウガ」が取り上げられている。私も昨年「アウガ」を訪れたが,その衰退ぶりには心が痛んだ。これは,地方が補助金に依存し,「身の丈に合わない一過性の莫大な予算」で華美な建築物をつくったものの,思うようにテナント料が入らず,維持費もかさんで赤字経営に陥ってしまったことが原因であった。ここまではいかないにしても,損失補てんに税金を投入し,逆に損失を雪ダルマ式に増やしてしまっている地方の事業は多そうだ。
 逆に成功事例には岩手県紫波町の「紫波マルシェ」があげられる。ここは補助金に頼らず,市中銀行からの借り入れで施設を整備し,農産物を卸してくれる農家を事前に募集し,出店料により運営している。全体の事業計画から逆算して,低い建築費に抑えたことや,テナント収入が安定して見込めるため,立派に黒字運営されている。
 地域の活性化は「おカネがないからできない」のではなく,「知恵がないからできない」のである。
 「紫波マルシェ」が入っている官民複合施設「オガールプラザ」には,ユニークな運営で知られる紫波町図書館も併設されているので,ぜひ一度足を運んでいただきたい。
 『町の未来をこの手でつくる 紫波町オガールプロジェクト』(猪谷千香著 幻冬舎 2016)と合わせて読むことをおすすめしたい。