健康で文化的な最低限度の生活(1)
著 者:柏木ハルコ
出版社:小学館
ISBN13:978-4091863577

健康で文化的な最低限度の生活(1)

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

大林正智 / 田原市中央図書館
週刊読書人2019年8月23日号(3303号)


 自己責任という名の妖怪が徘徊している。その妖怪の名のもとに,憲法で認められた権利さえ蔑ろにし,蹂躪しかねない言論が横行する。言論を取り扱う図書館としても,注目しておくべき現象ではないだろうか。
 さて,生活保護も妖怪がやり玉に上げる対象のひとつだ。本書は新人ケースワーカーの視点から,生活保護に関わる人間を描くマンガである。110世帯を担当する主人公が受給者に接して感じる困惑は,そのまま読者の困惑になる。「生活保護受給者」という概念ではなく,リアルな人間ひとりひとりと向かい合うことから来る困惑である。
 巷間ナイーブに語られがちな「不正受給」について(2巻で)取り上げるが,その言葉から思い浮かぶイメージと,ここでのエピソードとのギャップに虚を突かれる。人が「不正」を働くというのはどういうことなのか,なぜそれが起こりうるのか,想像できないと理解は単純な方向に傾く。人と接する仕事に従事する者にとって,想像力がいかに重要であるかを再認識させられた。
 また,いくつかのエピソードで,経済的困窮が「適切な情報があれば避けることができたもの」として描かれる(法テラスによる債務整理など)。情報提供機関である図書館としては看過できないところだ。「図書館に来てくれていれば,その情報に触れていてくれれば」とも感じるし,情報提供のための準備はできているだろうか,と自問もすることになる。そもそも生活保護受給者にとって図書館が利用しやすいものになっているだろうか,その視野に入っているだろうか,と。
 生活保護が経済のセーフティーネットだとすれば,図書館は知のセーフティーネットで(も)ある。その役割は「人を守る」ことにある,と自覚しておきたい。本書がそのネットの素材の一部たり得ることを確信している。