戦地の図書館 海を越えた一億四千万冊
著 者:モリー・グプティル・マニング
出版社:東京創元社
ISBN13:978-4488003845

戦地の図書館

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

山成亜樹子 / 神奈川県立図書館
週刊読書人2019年9月13日号(3306号)


蛸壺壕の中で,一人の兵士が夢中で本を読んでいる写真。枯草と泥にまみれた兵士は,苛烈で陰惨な現実に身を置きながらも,表情は生気に満ち,真剣そのものだ。私はしばらく,表紙を飾るこの写真から目を離すことが出来なかった。
 1933年5月10日,ベルリンでは「書物大虐殺」と呼ばれる焚書が行われた。アドルフ・ヒトラーが,自己の思想信条に沿った国家を作り上げるための計画の一つで,大々的なプロパガンダ攻勢を仕掛けて他国を侵攻し,有害と考える図書を処分するというものであった。本書によると,東ヨーロッパの図書館のうち,957館の蔵書はヒトラーの命によって焼き尽くされたという。
 一方アメリカでは,ドイツによるプロパガンダ作戦に対抗する組織が立ち上がった。その一つがアメリカ図書館協会である。「ヒトラーが焚書によって言葉を抹殺するつもりなら,図書館員は読書を促す」として,「思想戦における最強の武器と防具は本である」というスローガンを掲げた。
 その具体策として,「戦勝図書運動」を立ち上げ,全国から寄贈された本を戦地に届けた。
 出版社は廉価な「兵隊文庫」を生み出し,1947年9月までに1億4000万冊の本を戦場へ届けた。
 前線の兵士は,食糧の包みに貼られたラベルの表示をも,むさぼるように読むほど活字に飢えていた。そして「どんな状況に置かれていても,ユーモアのある作品を読めば,笑うことができた」という兵士の言葉から,いかに本が希望と救いを与える存在であったかが伝わってくる。
 1942年,国務次官補,アドルフ・A・バール・ジュニアは「本と関わりのある人は皆…本が真価を発揮できるように心を砕くべきです」と述べた。
 本の力を信じている私も,本の真価を一層発揮させるには何ができるだろうか。あらためて襟を正さずにはいられなくなった。