桜がなくなる日 生物の絶滅と多様性を考える
著 者:岩槻邦男
出版社:平凡社
ISBN13:978-4582856866

桜がなくなる日

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

大塚敏高 / 元神奈川県立図書館
週刊読書人2019年9月27日号(3308号)


 この本をなぜ手に取ったかというと,やはりタイトルである。「えっ!桜がなくなっちゃうの?」思わずそう考えた。タイトルは,十分にキャッチーで,読んでみたくなる。そうした動機から,まず本と出会うというのは悪いことではないと思う。
 しかし,この本は,決して「桜がなくなること」を主題としたものではない。「はじめに」を読むとそのことはすぐにわかる。「…分かりやすく日本列島の植物の動態を概観することで,問題の本質について考えるきっかけを提供してみたい。」(p.11)というのだ。「桜」の話題は,全体の5分の1くらいと言ってもよい。
 最初に,秋の七草に数えられているフジバカマとキキョウが,絶滅危惧種のリストに載っていると伝えられる。万葉集の頃から親しまれていた植物がなぜそうなってしまうのか,解説はわかりやすい。これに続いて,「生物多様性」について力を注いで書いている。難解な「生物多様性」という言葉の意味を述べたあと,「生物多様性がもたらしてきたもの」について遺伝子資源と環境問題を背景に説明を加える。しかし,それだけでなく「生物多様性」は,自然と接することによる「人の生き方」に関連している点も多いと力説している。
 ここまで読み進めると「生物多様性」の重要度を伝えることが,この本の最大の目的だということがより鮮明になる。「桜」はそのひとつの材料なのだ。まだ日本の自生種のサクラには絶滅危惧種はないが,未来にわたってそう言えるのか,「サクラの現状だけから想定するのは危険」(p.161)と言う。またこうも言う。「一種でも生存が危うい種があるならば,それは生物圏全体に危機が及んでいることになる。」(p.161)
 著者は植物の多様性についての研究の第一人者。専門的な著作も多いが,新書判のこの本には,幅広い知識に裏付けされた「科学エッセイ」の趣がある。その中に重みのある提言が随所に見える。