絶望手帖
著 者:家入一真発案、絶望名言委員会編集
出版社:青幻舎
ISBN13:978-4861525124

絶望手帖

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

横山道子 / 神奈川県立藤沢工科高等学校図書館
週刊読書人2019年10月4日号(3309号)


 その生徒は大きな困難を抱えているようだった。直感的にこの本を手渡す。私「つらかった時期は,毎朝起きると,あぁ起きちゃった,って思ってたんだよね」生徒「それは病んでましたね」私「落ち込んだときは無理に浮き上がろうとしないで沈んでみるとプールの底に足がつく感覚があって,どうにか浮き上がれてたな」生徒「ふーん」。
 219の名言が,人間関係,仕事,恋愛,空虚,幸福,社会,業,人生,絶望の9テーマに分けてある。各頁に大きく縦書きの名言,下部に小さく横書きで,言った人/肩書き/出典,3行の解説。出典は古典的名著だけでなく現代の図書,ブログやTwitter,「匿名希望/OL/編集部取材」といったものも混じる。解説ではその人がどう絶望していたか書かれていて,言葉の背景を考える助けになる。名言の他にカフカなど9人の「絶望の達人」が1人ずつ似顔絵入りで紹介された頁もあり,この人もつらかったのかと親しみがわく。
 そして各テーマの最初と最後の頁に置かれたイラストと言葉がユニーク。例えば「人間関係」の終わりではコーヒーを見つめる人のイラストに「苦くて深い,絶望の世界」。「絶望」の扉では暗い崖っぷちに向かい四つん這いになる人のイラストに添えて「希望はしばしば あなたを裏切りますが, 絶望は裏切りません。 希望は人を選びますが, 絶望は選びません。(後略)」。
 誰にでもきっと,絶望を味わい噛みしめて向き合うことでしか生き抜けない時期がある。ひざを抱えて「あとがき」の次頁をめくると,闇の先に見えてほしい光降り注ぐイラストが待っている。
 冒頭の生徒「3回読みました,こういうポエムみたいなのって結構好きなんですよ」。彼女の左手の甲に痛々しく留められていた安全ピンは,返却のときには無かった。