世界のお墓
著 者:ネイチャー&サイエンス
出版社:幻冬舎
ISBN13:978-4344029675

世界のお墓

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

猿橋広子 / 長野県富士見高等学校
週刊読書人2019年11月1日号(3313号)


 新聞雑誌を含む年間資料購入費110万2000円。園芸科1クラス普通科2クラスの小さな高校である。園芸科の課題研究はあるが,図書館をフル活用して取り組むには至らず,おのずと蔵書構成は活字少なめな方向になり「マンガでわかる○○」「サルでもわかる○○」的な本が増える。とはいえ,図書館は広い世界へと開く扉でありたい,という願いは捨てていないので,ビジュアルで,しかも類書がない本書などは,理想的構成資料である。
 写真集としても美しいが,内容もまた多彩である。死者の人生の物語とその挿絵のように,色鮮やかな肖像画と詩で飾られた木彫りの墓標は,ルーマニアのサプンツア村で80年前に若い職人の手で建て始められたもの。ここに参るために,いまや年間3万の観光客が訪れる。パリのカタコンブは地下の採石場跡に,閉鎖された市内の墓地から運び込まれた遺骨が整然と積み上げられ,アルカリ土壌のおかげで朽ちずに残る。フランス革命の英雄がどの骸骨かはもうわからない。オーストリアのハルシュタット納骨堂には赤と緑の草花を描かれた頭蓋骨が並んでいる。「メメント・モリ」と刻まれたチェコのセドレツ納骨堂の装飾は骨を組んだシャンデリア。タージ・マハル。墓地の島サン・ミケーレ。チベットポタラ宮の鳥葬の丘。テレジンのユダヤ人墓地。アメリカでは遺灰はケープカナベラルから宇宙に打ち上げられたり,フロリダで魚礁になったりもする。
 小さな図書館の一冊の本から,世界を広げていってほしい。見たことのないものを見て,思いもしなかったことに出逢ってほしい。死者に思いをはせるために,歴史を紐解き,地図を開いてほしい。お墓のいろいろを見比べるだけでも,世界の多様さを感じられるはずだ。