日本神判史 盟神探湯・湯起請・鉄火起請
著 者:清水克行
出版社:中央公論社
ISBN13:978-4121020581

日本神判史

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

河合真帆 / 鎌倉市腰越図書館
週刊読書人2019年11月1日号(3313号)


 「盟神探湯」。読めるだろうか?「クカタチ」とフリガナがふれる人は日本史をしっかり勉強した人だろう。
 これは,石を熱湯の中に入れ,争う双方が素手でこれを取り出して,火傷をしたら有罪,何ともなければ無罪とする古代の裁判方法である。
 だが,この何とも原始的な裁判法に酷似した「湯起請(ゆぎしょう)」が歴史の下った室町時代に大流行し,さらには焼けた鉄片を握るという裁判法「鉄火起請(てっかぎしょう)」が江戸時代に盛んに行われていたといったら,にわかに信じられるだろうか?
 この本は,室町時代から戦国期の社会史を専門とする著者が,この不可思議な裁判法について豊富な事例をもとに読み解いたものである。
 湯起請も鉄火起請も,争う者同士の「一騎打ち」だ。領地争いの当事者同士,殺人事件や盗難の被疑者に,火傷の有無で判決が下る。中には,無罪への一発逆転を狙い,被疑者の側から言い出される場合もある。驚いたことに湯起請の有罪無罪の確率は記録上五分五分だ。
 この原始的な裁判法が支持されたのはなぜか。著者はそこに人々の信仰心の変化を見いだしている。時代が下るにつれ,素朴な神への信仰心は希薄化していく。それに反比例する神判の過激化には,神をまだ信じていたい,信じられないという人々の「信心と不信心の微妙なバランス」(p.158)があったのではないかと。
 このような裁判法は外国にもみられるが,共同体内の人間関係のバランスを重視したり,決死の覚悟を尊重したりする日本人の国民性との関連性を指摘しているのも興味深い。
 実はこの湯起請,鉄火起請という神判を超える究極の解決策が存在する。興味のある方は,同著者の『喧嘩両成敗の誕生』(講談社選書メチエ 2006)をぜひお勧めしたい。