唄めぐり
著 者:石田千
出版社:新潮社
ISBN13:978-4-10-303453-7

唄めぐり

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

高柳有理子 / 田原市中央図書館, 日本図書館協会認定司書第 1111 号
週刊読書人2019年11月15日号(3315号)


 2015年の秋,先輩司書の手元に,この本はあった。私も好きな作家だ。勤務館に戻り,探してもエッセイや紀行文の棚にはない。民俗学の棚に在架していた。
 タイトルの「唄」とは,日本で歌い継がれる民謡である。本書は,2011年11月から2014年8月まで,『芸術新潮』で掲載された「唄めぐりの旅」という旅の記録であり,現在も歌われ続けている民謡と,それを生み育て未来につなげていく人々や風土をまとめたものである。北海道から沖縄まで25の民謡(福島は2回取材)とその背景を紹介する本は,いまは少ないのではないだろうか。民謡の参考資料(本・CD)一覧もあり,その土地なら,郷土資料にもなる。伝える意思がなければ,廃れゆく物事を,調査し,記録し,形にして残す,その役割の一環を,本も確かに担っている。
 表紙が印象的だ。佐渡のたらい舟に乗る一寸法師のような旅先のワンシーン。私という言葉をあまり用いない文体が特徴である著者の,とびきりの笑顔だ。一見して魅了された,これは読みたいと頁をめくる手がはやる。訪れた土地の順に編まれたためか,読み進めると旅を追体験し,唄すら聴こえてくる気がする。時おり折りこまれる,著者ならではの視点が嬉しい。小説やエッセイにもある雰囲気が零れ落ちる。活き活きした旅を,石井孝典氏の撮影による写真が伝える。なにより,民謡の唄い手がカメラを前に,少し照れながらも堂々と誇らしく,力強く唄う写真には,人が真摯に物事に取り組む姿は,これほど美しいものかと感じ入る。唄を知らなくても,唄い手がこめる思いが伝わってくるようだ。
 そういえば,民謡をよく知らないとCDを手に取る。いつか機会があれば名人の生唄を聴いてみたい,と読者である私の世界もひとつ広がった。